去年、この会社に「選ぶ席」を作った人が、今年は経営企画の席から「今は判断できない」と言った。人が変わったのか。席がそう言わせているのか。
去年の秋、この会社に「選ぶ席」を作った人がいます。
今年の秋、その人は、選ぶ席の向こう側に座っていました。
席を継いで7か月。困ったら聞ける人が社内にいることを、新しいリーダーはどこかで支えにしていて、その人が経営企画に移ったのも、むしろ心強いことだと思っていました。来年度の要望を経営会議に出す季節に、その見込みが少しずつほどけていきます。
10月に入ると、来年度の要望が共通窓口に届きはじめました。去年は個人あてのチャットで届いたものを窓口に転記してもらいましたが、今年は最初から窓口に来ます。窓口に出せば番号が付き、情シスが1枚にまとめ、経営会議が選ぶという去年の決め方を、どの部も覚えていて、月末までに26件になりました。
共有フォルダには、去年、前のリーダーが経営会議に出したA3が残っていました。要望と、出した部と、「10年後も、同じくらいの人数で届け続ける」への効き。自分で列を考えるより、去年通った形をなぞるほうが安心だったので、新しいリーダーはそれを開いて、列の並びから幅まで写しました。進行中の案件も、来年の予算が要るものは窓口に出してもらい、同じ1枚に載せました。
去年と違うことが、ひとつだけありました。来年の4月から始まる3か年の中期経営計画を経営企画がまとめている最中なので、経営会議に出す材料は、今年から経営企画を通すことになった。経営企画でIT投資を見る担当は、この3月まで新しいリーダーの今の席に座っていた、前のリーダーでした。
A3を仕上げるまでに、2人が情シスの島に寄っていきました。
1人目は経理部長です。胸ポケットから出した二つ折りの紙を机に置き、広げると、去年と同じ件名が印刷してありました。「AIで仕訳を自動に」。
「AIで仕訳を、と去年も出しました。今年も同じ紙を出せばいいんですか」
責める調子ではありませんでした。去年この要望は選ばれなかった16件に入って理由も届き、それでも今年、同じ紙をもう一度出すしかない。そのことを、ただ確かめに来たような声でした。
2人目は、7月と8月の育休から戻ってひと月がたった、インフラ担当の名人で、新しいリーダーの肩ごしにA3をのぞきこみ、行を指で追ってから言いました。「26件のうち、半分は同じところにつながってますね」
どこにつながっているのかを聞く前に、名人は自分の席に戻っていきました。
前のリーダーが来たのは、その翌週です。
経営企画の島から、情シスの島まで歩いてくる。「資料を送っておいて」とチャットで言えば済むところを、去年と同じように、相手の机の横まで来る人でした。
A3を、前のリーダーは最後の行まで読みました。読みながら胸ポケットから抜いたのは、去年、20件から4件を選ぶ材料を作っていた頃に、行の横へ小さな印を付けていたのと同じ鉛筆です。芯の先が、3行目の横で止まりました。
印は、付きませんでした。
鉛筆をポケットに戻して、前のリーダーは言いました。「今は判断できない。全社の計画と並べないと」
新しいリーダーは、すぐには言葉が出ませんでした。「去年は、この1枚で決めてもらえたんです」
「去年は、並べる計画がなかったからね」
そこで、机の電話が鳴りました。新しいリーダーの手が、誰より早く受話器に伸びる。ヘルプデスクにいた頃からの癖です。営業所から、プリンターが紙を吸い込まないという電話で、手順を案内して受話器を置いたとき、前のリーダーはもう、経営企画の島へ歩き出していました。来たときと同じ歩き方でした。
3行目は、第二工場の割り振りアプリです。経営会議が去年選んだ4件のうちの最後の1件で、春から夏は新しいラインの立ち上げで工場が手いっぱいだったため、9月に始まったばかりでした。鉛筆がそこで止まった理由は、A3のどこにも書いてありません。
経営企画に移った前のリーダー、その席を継いだ新しいリーダー、去年と同じ紙を持ってきた経理部長、全体図を頭の中に持っている名人。A3の1枚をはさんで、4つの席のうしろを見ます。
子は人ではなく、席につく。言葉がきつくなるのは、うしろの子が何かを怖がっているとき。6体の紹介は地図に
「今は判断できない。全社の計画と並べないと」
怖いのは全社の計画が決まる前に約束して、2月にひっくり返すことになること
「去年は、この1枚で決めてもらえたんです」
怖いのは去年は通じた1枚が通じず、上の席に何を出せば決めてもらえるのか分からないこと
「AIで仕訳を、と去年も出しました。今年も同じ紙を出せばいいんですか」
怖いのは去年も出した要望が、中身を聞かれないまま、また後ろへ回されること
「26件のうち、半分は同じところにつながってますね」
怖いのは別々に選ばれた案件が、同じ基幹システムの同じ線を、別々にいじりはじめること
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
その背中を見送ったあと、情シスの島では、3人が3通りのことを言いました。
情シス課長は腕を組みました。「経営企画に行くと、みんなああなる。決めない側に回るんだよ」
名人は、モニターから目を離さずに言いました。「前から、材料がそろわないうちは決めない人でしたよ」
4月に大手のSIerから移ってきた中途のメンバーは、机の端の本に手を置きました。ITILの本で、付箋のせいで厚みが倍になっている。「本来は、戦略が先にあって、それに沿って案件を選ぶものです。順番としては、経営企画が正しいと思います」
人が変わったのか。前から同じ人なのか。席がそう言わせているのか。3人の言うことは、どれも少しずつ当たっていそうで、どれかひとつには決められませんでした。はっきりしていたのは、困ったら前のリーダーに聞けばいい、という道が、もう前と同じようには使えないことだけです。
去年を思い出すと、なおさらでした。課長と社長室に行き、「DXを進めろ、の目的は何ですか」と聞いて、20件を選ぶ物差しそのものを作ったのは、前のリーダーです。今年の自分がしたのは、その物差しの列をA3に写したことだけです。前のリーダーみたいにはできない。そう思ったまま、物差しの作り方を、自分で確かめに行くことにしました。
次の日、新しいリーダーは自分から経営企画の島まで歩きました。聞いたのは、全社の計画の中身ではありません。決まり方です。何が、いつ決まるのか。
答えは短いものでした。「10年後も、同じくらいの人数で届け続ける」という、去年の経営会議で言葉にしたビジョンは変わらない。それを3年でどこまで進めるのかを、中期経営計画にする。骨子は12月の経営会議に出し、決まるのは2月。中身は、まだ言えない。
「まだ言えない」と言われて、かえって見えたものがあります。全社の計画にも、もう決まっている部分と、これから決まる部分があって、これから決まる部分には、決まる日がある。だとすれば、決まっている部分は、今日から物差しに使えるはずでした。
島に戻る途中で、月を指で数えてみました。来年度の予算の枠を決める経営会議は11月。中期経営計画が決まるのは2月。来年度の要望は、そのあいだの3か月に落ちています。去年は中期経営計画を作らない年だったので、この3か月がなく、情シスのA3が、そのまま来年の計画の代わりになれた。「去年は、並べる計画がなかったからね」は、たぶんこのことでした。
経営企画の席から見ると、景色はこう変わります。2月に決まる計画と食い違う案件を、11月に先に通してしまえば、食い違いを説明するのは経営企画です。通した案件を2月に止めることになれば、止める理由を各部に説明するのも経営企画。「全社の計画と並べないと」は、その席の仕事の説明そのものでした。誰が座っても、たぶん同じことを言う。ただ、去年まで同じ島で要望を並べていた人の口から出ると、同じ言葉が、別の重さで聞こえます。
席に着くと、社長の年初のあいさつから、中期経営計画のまわりで聞こえてくる話まで、全社の計画にかかわる言葉をいったん全部書き出してみました。使えるものと、待つものと、使えないもの。仕分けてみると、思っていたより少ない言葉で足りました。
要望を比べるときの物差しとして、いま使えるかどうかで分けてください。
決まった物差しは今日から使い、まだの物差しには決まる日を書く。掛け声と手段は、どれだけ響きがよくても、物差しの欄には入れない。
戦略は、全部そろってから使うものとは限りませんでした。決まった物差しは今日から使い、まだの物差しには決まる日を書いておく。A3の右端には、「2月に決まる物差しで、答えが変わりうるか」という列が1本増えました。
目的:目標を決め、そこへ向かう行動と資源の配分を決める。方向・集中・優先順位を与える
決まった物差しは今使い、まだの物差しに日付を付ける
1年目では 第8話 で出会ったしくみ。
列を1本足しても、まだ比べられなかったのは、26件のほとんどが解決策の名前で書かれていたからです。「AIで仕訳を自動に」「営業日報をスマホで」「会議室の予約を新しく」。名前のままでは、どの物差しにどう効くのかが書けない。「効き」の列も、去年のA3では、正直に言えば要望の名前から受ける印象で埋めていました。
まず出した部に聞いて回ると、「営業日報をスマホで」は、日報を書くためだけに営業所へ戻る40分の移動が困りごとで、「会議室の予約を新しく」は、予約したまま使われない部屋が週に十数回あることでした。言い直すと、効く物差しも変わります。移動の40分は人の手間の話で、空いた会議室は、ほとんど人数に関係がない。
手伝っていた中途のメンバーが言いました。「前の会社では、要件定義のテンプレートが40項目ありました」。使ったのは、5つの欄だけです。困りごと、狙う結果、できるべきこと、どれくらい、解決策の候補。40項目は、作ると決まった案件のために取っておくことにしました。
最後に残したのが、経理部長の二つ折りの紙です。去年も出て、去年も選ばれなかった要望を同じ聞き方で済ませたくなくて、経理の島に行き、部長と、締めの入力をしている担当者の2人に聞きました。仕訳のどこに、どれくらい時間がかかっているのか。
担当者が指さした画面の端の付箋には、8つの営業所の名前が並び、半分に赤い線が引いてありました。「締めの3日間に、営業所の領収書がまとめて届くんです。赤いところは、今月もまだ来ていないところです」
仕訳そのものは慣れた人なら1件に1分もかからず、時間を食っていたのは、遅れて届いた束を読み解くことと、足りない領収書を営業所に電話で催促することでした。
経理部長は、腕を組んで聞いていました。「AIなら、そこも全部やってくれると思ってたんですがね」
要望の名前は「AIで仕訳」。困っているのは「締めの3日間に、遅れて届く束が集中すること」。同じ話に見えて、指しているものが違います。AIが勘定科目を当ててくれても、領収書が締めの最後の日に届くかぎり、催促の電話は1本も減りません。
去年、この要望に付いた見送りの理由は「部の中の工夫で先にできる」でした。理由としては正しかった。ただ、その工夫が何なのかを、経理の島まで聞きに来た人はいなかった。経理部長が同じ紙をもう一度出したのは、そのせいだったのかもしれません。
経理部長の二つ折りの紙を、要望シートに書き直します。各欄で、いちばん合うものを選んでください。
誰が、どの作業で、どれだけ困っているかを書く。「AIを使っていない」は困りごとではなく、解決策がまだ入っていないという状態の説明
結果は、変わったかどうかを確かめられる形で書く。AIは手段。残業ゼロは、締めの集中を解いた、さらに先の話
困りごとの根は「月末にまとめて届く」こと。毎日出せるようになれば、束そのものができない
どれだけの量を、どれくらいの速さと安全さでさばけばよいか。締めの日に精算システムが固まったことのある会社なら、ここは外せない
解決策は2つ以上並べる。すでにある仕組みの延長も候補に入れると、比べる意味が出てくる
要望の言葉は「AIで仕訳」。言い直すと「締めの最後の日に届く束をなくす」。解決策の候補には、去年入れた電子申請の延長も並びました。
要望は、たいてい解決策の形で届きます。困りごとまで戻して書き直すと、全社の計画とも、ほかの部の要望とも、同じ物差しで並べられるようになった。26件を同じやり方で言い直すのに2週間かかり、言い直したあとも手段の名前のまま残ったのは、3件だけでした。
目的:事業を分析してニーズを定義し、課題を解く方法を提案する。変える理由と解決策を形にする
製品名の前に、困りごとと狙う結果を書く
1年目では 第8話 で出会ったしくみ。
言い直した26件を前にして、新しいリーダーは名人の一言を思い出しました。「半分は同じところにつながってますね」。聞きに行くと、名人は説明より先に、ホワイトボードのペンのふたを外しました。
真ん中に、大きな箱をひとつ描く。「基幹システム。受注と出荷と在庫」。その左に、もうひとつ。「社員のデータ」。そこから線を3本引いて、給与、勤怠、アカウント管理のサービスにつないだ。「社員の名簿が、3か所にあるんです。入社のたびに、3回打ち込んでます」
右の端に、どこにもつながらない箱を点線で描いてから、名人は言い直した26件の紙を1枚ずつ、箱の近くに磁石で留めていきました。
「この図、ちゃんと描いたのは初めてですね」と、名人はペンのふたを閉めながら言いました。台帳には、サーバー1台ずつの中身と持ち主とつながりが書いてあるのに、会社の仕組み全体を1枚で見渡す図は、どこにもなかった。台帳が部品を1つずつ正確に持つ地図だとすれば、ホワイトボードの図は、部品を思いきって省いた会社全体の地図です。要望を比べるときに要るのは、こちらでした。
紙が集まってくると、名人の言った意味が見えてきました。基幹の箱のまわりに13件。社員のデータの箱に5件。どこにもつながらないものが8件。別々の部から、別々の名前で出てきた要望が、同じ箱の同じ線をいじろうとしていた。
去年と同じように、効きの大きい順に4件を選んでいたら、どうなったか。上から4件のうち3件が基幹の箱の要望なので、来年、基幹システムには3つの工事が別々に入るところでした。A3を縦に眺めているあいだ、この重なりは1行も見えていませんでした。工事が重なれば確かめる作業も重なり、3つの工事が同じ受注の画面を別々の順番で直せば、どれかの直しが、ほかの直しを壊す。名人が「同じところ」と言ったのは、そのことでした。
名人の描いた3つの箱のうち、どれにつながる要望かを選んでください。
要望は、全体図に置いてから比べる。別々の部の、別々の名前の要望が、同じ箱の同じ線に集まっていました。縦に並べたA3では、この重なりは見えません。
要望の一覧は、縦に並べれば26本の行でも、全体図に置くと3つの山になる。全社の計画が動かすかもしれないのがこの3つの箱のどれなのか、それさえ分かれば、「判断できない」がどこまでかかるのかも分かるはずでした。
目的:組織を作っている要素とそのつながりの全体像を持ち、複雑な変化を構造的に、機敏に進められるようにする
要望は、全体図に置いてから比べる
1年目では 第10話 で出会ったしくみ。
ホワイトボードの写真を印刷して、新しいリーダーはもう一度、経営企画の島まで歩きました。
「計画の中身は聞きません。2月まで動くかもしれない箱が、この3つのどれなのかだけ、教えてもらえませんか」
前のリーダーは、写真をしばらく見ていました。胸ポケットから、また鉛筆が出てくる。今度は芯の先を使わずに、後ろの端で、真ん中の箱を2回たたきました。
「ここは、2月まで決まらない。ほかの2つは、計画がどう決まっても動かない」
「決めるのは、そちらになるんですか」と聞くと、前のリーダーは首を横に振りました。「経営会議。ガバナンスの席は、去年から動いてないよ。こっちは、並べる机が1つ増えただけ」
それから、こう付け足しました。「情シスの案件も、全社の投資の中の1本だからね」
言えないことは言わずに、言えることは全部言ってくれた。そう受け取ることもできます。あるいは、席の言葉が先に出る人になった、とも取れる。最後の一言は、1年前の前のリーダーなら使わなかった言い方でした。情シスの案件を「全社の中の1本」と呼ぶのは、会社全体の帳簿を見る席の言葉です。どちらの受け取り方が正しいのかを、新しいリーダーは帰り道で考えるのをやめました。どちらだとしても、次にやることは同じだったからです。
情シスの島に戻ると、26件を2本の物差しで並べ直しました。1本目は去年と同じ、ビジョンへの効き。2本目は今年足した、2月まで動く基幹の箱につながるかどうか。始めた案件を続けるかどうかも選ぶ仕事のうちなので、進行中の割り振りアプリも、同じ地図に置きました。
並べはじめると、うしろからのぞきこんだ情シス課長が、去年まで断る役を一人で引き受けてきた人の声で聞きました。「見送る分は、誰が伝えるんだ」「経営会議です。理由と一緒に」。課長は小さくうなずいて、自分の席に戻っていきました。
縦は、2月まで動く基幹の箱につながるかどうか。横は、ビジョン(10年後も同じくらいの人数で届け続ける)への効き。
項目を1つ選んでから、マスを押してください。
4つのマスが、そのまま4つの返事になった。左下は今決める。左上は2月の日付を付けて待つ。右下は部の中で先に始める。右上は理由を付けて見送る。
去年は20件から4件を取ることを「選ぶ」と呼んでいましたが、今年の「選ぶ」は、26件のそれぞれに、4つの返事のどれかを付けることでした。待つものには日付を、見送るものには理由を、部で先に始めるものには一緒に動く相手を付ける。「今は判断できない」に、26件をまとめて止める力はありませんでした。
目的:限られたお金と人の中で戦略を実行できるよう、取り組みの組み合わせを適切に保つ
今決める・待つ・部で先に・見送る、に分ける
1年目では 第8話 で出会ったしくみ。
11月の経営会議は、左下のマスの7件を今決めました。基幹につながる効きの大きい9件には「2月の経営会議で、中期経営計画と並べて決める」と日付が付き、効きの小さい4件は理由を付けて見送り、残りの6件は部の中で先に始まりました。言い直した経理の要望シートは、経理部長が二つ折りにして胸ポケットにしまいました。領収書の写真の欄は、12月から営業所で使いはじめます。
怖がっていたこと全社の計画が決まる前に約束して、2月にひっくり返すことになること
怖がっていたこと去年は通じた1枚が通じず、上の席に何を出せば決めてもらえるのか分からないこと
怖がっていたこと去年も出した要望が、中身を聞かれないまま、また後ろへ回されること
怖がっていたこと別々に選ばれた案件が、同じ基幹システムの同じ線を、別々にいじりはじめること
物差しを分ける、要望を言い直す、全体図に置く、組み合わせを選ぶ、という4つのしくみは、1本の流れの上に並んでいます。経営企画の席のうしろには、いまも「あとで」がついています。いなくなったわけではありません。「2月」という日付を持って、待てるようになっただけです。
番号と分類はITIL 4の並べ方です。ITIL 5の試験で押さえるのは「プラクティス=資源のまとまり」と2つのグループまで。
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
経営企画に出した資料には、前のリーダーから一行だけ返事が来ていました。「これなら、並べられる」。その一行を、新しいリーダーは2回読みました。去年なら「これで決めよう」と書いた人です。
経営会議の資料を出し終えた週、新しいリーダーは申し送りノートを開きました。前のリーダーが残した引き継ぎ資料で、目次は5つ。従うべき原則、ガバナンス、バリューチェーン、管理プラクティス、継続的改善。ガバナンスのページには、前のリーダーの字で「経営会議が評価・指示・モニタリングする流れ」とだけ書いてあり、その下の余白に、今月の分を書き足しました。
最後の行を書いてから、新しいリーダーは、手元に残しておいた最初のA3を出しました。鉛筆が止まった3行目、第二工場の割り振りアプリ。今決める、のマスに入った7件のひとつです。
行の横に、印はありません。付けなかったのか、付けられなかったのか。
そのA3を、ノートのガバナンスのページに挟んで閉じました。
Q1. 経営会議が、並べた材料を見たうえで、7件を「今決める」とし、基幹につながる9件には「2月に中期経営計画と並べて決める」と日付を付けた。ガバナンスの3つの活動のうち、どれにあたるか。
B。どれを先にやり、どれをいつ決めるかという方向と優先順位を定めるのは、指示です。材料を見て状況を見極めたところまでは評価、決めたとおりに進んでいるかを確かめるのはモニタリング。比べる材料を作ったのは情シスと経営企画で、こちらがマネジメントの層の仕事でした。
Q2. 名人がホワイトボードに描いた「基幹システムと社員のデータ、そこにつながる仕組みと受け渡すデータ」の図。4つの側面のうち、主にどれを描いたものか。
B。仕組みと、そのあいだを流れるデータを描いた図は、情報と技術の側面です。誰が持ち主か(組織と人材)、どの会社のサービスか(パートナーとサプライヤー)を書き足すと、ほかの側面も同じ図の上に載ってきます。