大雪、停電、締めの最終日、そして1通の不審なメール。名人は、雪で家から出られなかった。
ルールどおり動くだけ=traditional automation(AIではない)、作る=generative AI、範囲の中で自分で動く=agentic AI。AIを統制する枠組み=AI governance、人が見張る=human oversight。土台はデータの品質とプライバシー。
非常時に効くのは、非常時のために作ったものより、
ふだんの仕事のために作ったものです。
この1年、この会社は災害の備えを特別には作ってきませんでした。そこへ、雪の日が来ます。
前の晩から降り続いた雪で、北関東の第二工場の一帯が停電しました。工場のサーバー室には出荷ラベルと生産管理のサーバーがあり、非常用の電源は30分しかもたない。
インフラ担当は、雪で家から一歩も出られませんでした。玄関を開けると、膝の高さまで雪が積もっている。電車は止まり、道路は通行止め。第2話のときと同じく、名人がいない日です。
そして同じころ、全社員あてに1通のメールが届きました。差出人は「情報システム部」。
名人のいない、締めの最終日。窓口に記録が並びはじめたとき、2つの席のうしろでは、子が固まっていました。
子は人ではなく、席につく。言葉がきつくなるのは、うしろの子が何かを怖がっているとき。6体の紹介は地図に
「いま聞かれても、どれから戻すかなんて決められない」
怖いのは止まっている最中に、戻す順番を決めなければならないこと
「すみません、押してしまいました……」
怖いのは黙っていたらあとで大変なことになる。でも言えば責められるかもしれないこと
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
工場からの電話の向こうで、短い警報音が鳴り続けていました。サーバー室が非常用の電源に切り替わったことを知らせる音です。停電がいつ戻るのかも、メールを誰が送ったのかも、まだ分かりません。
リーダーは、窓口の記録を開いたまま、チームに言いました。「これは混沌です。原因はあとで調べます。先に、これ以上悪くしないことだけ決めましょう」
原因と結果のつながりが見えず、調べているうちに事態が進んでいく。第9話で分けた3つの状況のうちの、混沌とした状況です。こういうときは、原因を突き止めるのをあとに回します。まず動いて、状況を安定させる。分析は、そのあとです。
リーダーは、窓口に集まった記録を見ながら、最初の15分で3つだけ決めました。
3つの判断が15分でできたのは、リーダーが優秀だったからではありません。判断に必要な情報が、全部どこかに書いてあったからです。
工場の電気が戻ったのは、停電から6時間後でした。非常用電源が切れる前に止めたサーバーは、カードの順番どおりに戻り、データはひとつも失われなかった。止まっていた間の出荷は手書きのラベルで続き、トラックは予定より1時間遅れで出ていきました。
不審なメールのリンクを押してしまった社員は2人。2人とも、自分から窓口に連絡してきました。パスワードはその場で変えられ、被害は出ませんでした。
家から電話で状況を聞いていたインフラ担当は、最後にこう言いました。「今日、自分は一回も再起動してないですね」
春に名人が研修で休んだ日には、精算システムが3時間止まりました。この日の名人は、雪で一日来られなかった。それでも、工場のサーバーは、練習した2人が安全に止めて、戻した。
この1年でいちばん大きく変わったのは、ここです。名人がいる日の速さではなく、名人がいない日の強さ。
第5話で見たサービスの価値の4つの特性のうち、この日に揺さぶられたのは保証(warranty)、つまり「約束どおりに動くか」でした。保証は、次のような性質で支えられています。
そして、この日の発端の大雪は、会社の中からはどうにもできない外部要因でした。外部要因は、4つの側面のすべてに影響する。この日も、人(来られない名人)、パートナー(電力と交通)、情報と技術(サーバー室)、流れ(出荷)のすべてが揺れました。
もうひとつ、ITILの運用の言葉の中に、この日の出来事そのものを指す言葉があります。大きな被害を出す、突然の出来事。災害(disaster)です。
翌週、チームと経理・工場・総務の担当者で、この日の振り返りをしました。誰が悪かったかは、一度も話題になりませんでした。話したのは、何が効いて、何が足りなかったか。
最初に、総務の担当者が言いました。「大雪は、PESTLEでいう環境的な要因です。うちでは止められません。だから今日話すのは、止まったときの備えのほうです」
足りなかったものも、はっきりしていました。工場のサーバー室の非常用電源が30分しかないこと。手書きのラベルの様式が古く、取引先の新しい品番の欄がなかったこと。そして、不審なメールのリンクを押した人が、自分から連絡してこなかったらどうなっていたか。
3つとも改善の一覧に載り、12月から続いている月に一度の見直しの場で、順番に片付けていくことになりました。
この日の対応を、ライフサイクル活動の言葉で言い直すと、こうなります。止まったサーバーを戻したのはサポート(成功は戻す速さ)。電気が戻るまでの間、手書きのラベルで出荷を続け、精算を動かし続けたのは運用と提供。第2話で名人の技を「止まってから戻すサポート」と「止まる前に手を打つ運用」に分けたことが、1年後、名人のいない日にそのまま生きました。
この日のために作ったしくみは、ひとつもありません。それでも、2体の子は、置いてあったしくみで落ち着きました。
怖がっていたこと止まっている最中に、戻す順番を決めなければならないこと
戻す順に押してください。
怖がっていたこと黙っていたらあとで大変なことになる。でも言えば責められるかもしれないこと
「今日、自分は一回も再起動してないですね」。家から電話でそう言ったとき、第2話で居場所をなくしそうになっていた名人の子は、もう丸まっていませんでした。
番号と分類はITIL 4の並べ方です。ITIL 5の試験で押さえるのは「プラクティス=資源のまとまり」と2つのグループまで。
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
春までなら、工場が止まったという知らせは、まず名人の個人チャットに届いていました。この日、最初の知らせが届いたのは共通窓口です。
非常時は、名人を呼ぶ。名人が来られる限り、それはいちばん速い答えでした。名人は優秀で、責任感も強い。ただ、雪の日には、名人も家から出られない。
| 混沌とした状況chaotic | (再登場)原因と結果のつながりが見えない。まず動いて安定させる |
| 保証warranty | (再登場)約束どおりに動くか(fit for use)。可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性 |
| 環境的要因Environmental(PESTLE) | (再登場)気候や環境規制など、環境と持続可能性に関わる外部要因 |
| 災害disaster | 大きな被害を出す、突然の出来事 |
| サポートと運用support / operate | (再登場)止まったものを戻す/日々動かし続ける |
もっと詳しく:ITIL 5 解説ガイド(価値の4つの特性/内部要因と外部要因/バリューチェーン/複雑性思考)
Q1. 工場では警報が鳴り、全社には不審なメールが届いた。停電がいつ戻るのかも、メールを誰が送ったのかも分からない。リーダーは原因を調べる前に、メールを開かないよう流し、工場を紙のラベルに切り替えた。複雑性思考で、この判断をどう説明できるか。
C。原因と結果のつながりが見えず、調べているうちに事態が進む状況が「混沌とした」状況です。まず安定させ、分析はそのあとに回します。複雑性思考は、ITIL 5で取り入れられた考え方です。
Q2. 電気が戻ったあと、練習した2人がカードの順番どおりにサーバーを戻し、通常の状態にした。8つのライフサイクル活動のどれにあたり、その成功は何で測るか。
B。中断のあとに通常へ戻すのはサポートで、戻す速さで測ります。電気が戻るまで紙のラベルで出荷を続けたのは、運用と提供の側です。ITIL 4のバリューチェーンでは「提供とサポート」(deliver and support)が1つの活動でした。