12か月、全部緑。経理部長は二つ折りの報告書を開いて、「この紙、来月もいりますか」と聞いた。
去年の夏に結んだ約束は、一度も破られませんでした。
そのあいだに、誰も読まなくなっていました。
8月のはじめ、経理部長が情シスの島まで来ました。手には、二つに折った紙が1枚。経理部と情シスが去年の夏に結んだ経費精算の約束に、情シスが毎月の実績を書き込み、部長が見て判定する、その7月分の報告書です。受け取るたびに、部長はそれを二つに折って、胸ポケットにしまってきました。12か月、ずっと。
机の上で開かれた紙は、折り目のところだけ白く、やわらかくなっていました。
「12回とも、緑でした」と部長は言いました。「この紙、来月もいりますか」
答える番は、新しいリーダーでした。4月まではヘルプデスクの席にいて、前のリーダーが本社の経営企画へ移ったあと、この席を継いだ人です。窓口も、カードも、台帳も、この約束も、全部そのまま受け取りました。
「インフラ担当が育休から戻る9月に、あらためて読み直させてください」
部長はうなずいて、2枚目の紙を出しました。こちらは折られていない。経理部で起こした、請求の訂正の一覧です。7月だけで、38件。去年までは、月に5件あるかないかでした。注文番号は、ほとんどが2つずつ並んでいます。同じ取引先から、同じ品物が、同じ数だけ、番号を1つずらして。
「精算は、もう止まりません。いま締めで詰まっているのは、こっちなんです」
訂正の8割は、取引先の注文アプリから、同じ注文が2回入ったものでした。2回出荷して、2回請求して、締めのときに経理が見つけて取り消す。締めの3日のうち、まる1日がこれで消えている、と部長は言いました。
取引先向けの注文アプリは、FAXの注文を減らすために作ったもので、動き始めて7か月になります。スマートフォンで注文できる取引先から順に移ってもらい、営業本部はこの夏の商談で、行く先々で勧めて回った。春には1日400件ほどだったアプリの注文が、7月には800件を超えていました。
部長を見送ってから、営業本部の受注の課長に電話をかけました。訂正の件数を伝える前から、課長は事情の半分を知っていました。
「止まってないのに、取引先は注文できないって言うんです」
課長は、ある惣菜店の店主から営業所にかかってきた電話を、そのまま教えてくれました。
「締め切りの前に限って、くるくる回ったまま進まない。だから、もう一回押した」
注文アプリについての約束は、どこにもありませんでした。約束を結んだ去年の夏には、アプリはまだ動いていなかったからです。
電話を切ると、新しいリーダーは、前のリーダーが残した引き継ぎの資料を開きました。5つの章に分けた目次の、「管理プラクティス」の章。精算の約束のページのいちばん下に、前のリーダーの字で1行だけ書いてあります。
「毎年7月、経理部長と読み直す」
もう8月でした。
チャットを開いて、宛先に前のリーダーの名前を入れました。聞けば、この6行がなぜこの形なのか、たぶん5分で答えが返ってくる。そこまで打って、手が止まりました。宛先を消す。資料の余白には、4月から毎月1ページずつ自分の字が増えていて、8月のページだけが、まだ白いままでした。
4月からの4か月、新しいリーダーはこの約束を、ほかの引き継ぎと同じように回してきました。月が変わると精算の記録から数字を拾って表に書き込み、経理部へ届け、部長がそれを二つに折って胸ポケットに入れるのを見届けてから、席に戻る。それで終わり。この6行が、なぜ6行なのか。誰が、どんな痛みから書いた行なのか。聞かれても、答えられる自信はありません。前のリーダーなら、たぶん答えられた。
向かいの席から、中途のメンバーが顔を上げました。4月に大手のSIerから移ってきた人で、机の端には、付箋が何十枚も飛び出したITILの本が立っています。名人と呼ばれるインフラ担当が育休でいないこの夏は、サーバーの面倒も見ています。名人の机は、7月からずっと片付いたままです。
「読み直すなら、今の6行では足りません。可用性も、性能も、測っていない」。そこで一度言葉を切って、本の背に手を置きました。「ITIL的には、こうあるべきです」
2日後、新しいリーダーの机に、6ページの案が置かれていました。数字は、24個。
その本を、新しいリーダーは一度も開いたことがありません。窓口で受けた電話の数なら、チームの誰より多い。けれど、自分が毎日やってきたことを、本に載っているような言葉で言い直したことは、一度もなかった。6ページの案には、知らない略語が5つ。
| 項目 | 目標 | この12か月 |
|---|---|---|
| 締めの3営業日、止まらずに使えること | 中断0回 | ●●●●●●●●●●●● |
| 止まったときに戻すまでの時間 | 30分以内 | 該当なし |
| 問い合わせへの最初の返事 | 1営業日以内 | 平均0.4日 |
| 月次報告で経理部長が判定 | 毎月 | 12回 |
| 締めのあとの問い「迷わず入力できた」 | 9割 | 94〜97% |
| 締めのあとの問い「窓口の返事で困った」 | 1割以下 | 0〜3% |
経理部長は報告書を、中途のメンバーは数字のない場所を、受注の課長は止まっていないアプリを、取引先は締め切りを見ていました。席のうしろを順に見ます。
子は人ではなく、席につく。言葉がきつくなるのは、うしろの子が何かを怖がっているとき。6体の紹介は地図に
「この紙、来月もいりますか」
怖いのは12か月、緑の紙を受け取り続けても、それで何を決めればいいのか分からないこと
「ITIL的には、こうあるべきです」
怖いのは数字にしていない場所で事故が起き、そこにいた誰かが責められること
「止まってないのに、取引先は注文できないって言うんです」
怖いのはアプリが使えていないことを、取引先からの電話で最後に知ること
「締め切りの前に限って、くるくる回ったまま進まない。だから、もう一回押した」
怖いのはいちばん注文したいときに限って、画面が先へ進まないこと
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
6ページの案を持って、新しいリーダーと中途のメンバーは経理部へ行きました。
1枚ずつめくって最後まで読み終えると、部長はいつものように、紙を二つに折ろうとしました。6枚の束は折り目がつかず、ふくらんだまま手の中で開いていきます。しばらく手のひらで押さえてから、束は机に置かれました。
「どれも、正しいんでしょうね。それで、この中で、わたしが決めることはどれですか」
数字の意味を、中途のメンバーは1つずつ説明しました。稼働率が落ちたら、ベンダーに改善を求める。応答時間が延びたら、サーバーを足す。どれも筋は通っている。ただ、判断するのは全部、情シスでした。
部長は聞き終えてから、自分が毎月していることを話しました。締めが終わると、課の担当者を集めて、翌月の段取りを決める。経理部の壁のホワイトボードに3日分の枠を書き、誰がどの日に何を片付けるかを埋めていく。入力の締め切りを前に倒すか。総務に応援を頼むか。取引先への請求を、いつ出すか。部長が毎月決めているのは、つまるところ「締めの段取りを、来月も同じでいくか、変えるか」の1つでした。
「去年、前のリーダーさんとは、先に重要成功要因を決めて、数字はそのあとにしたんです」と部長は言いました。「この束は、数字のほうから来ていますね」
24の数字は、下から積み上げて作られていました。測れるものを全部測って、並べる。ところが、受け取る人の判断は上にある。24個のどれを見ても、「段取りを変えるか」には答えが出ません。
席に戻ると、中途のメンバーは、ITILの本から付箋を1枚はがし、少し迷って、また同じページに貼り直しました。前の職場で、決めごとのなかった場所から事故が起き、誰かが責められるのを見てきた人です。数字にしておけば、少なくとも、どこで何が起きたかをめぐって人がもめずに済む。24個は、そのための数字でした。だから、1つも削りたくない。
数字は、上から選びます。まず、受け取る人が何を決めるのかを聞く。その判断がうまくいくのに欠かせない条件を決める。部長の言った重要成功要因(critical success factor、CSF)が、この条件です。条件がどこまで満たされたかを測る数字がKPI(key performance indicator)。KPIを組み立てる部品の数がメトリクス(metric)です。並べてみると、中途のメンバーの24個は、ほとんどがメトリクスでした。
経理部長が毎月決めるのは「締めの段取りを、来月も同じでいくか、変えるか」。めざす結果は「締めを3営業日で、訂正なしに終える」こと。そこから下へたどると、数字は3つの層に分かれます。
受け手の判断 → 重要成功要因 → KPI → メトリクスの順に、上から選ぶ。24の数字は下から積み上げていたので、部長の判断まで届かなかった。KPIは約束と報告へ、メトリクスは情シスの計器盤へ。数字は捨てずに、置く場所を分ける。
24個は、捨てる数字ではありませんでした。置く場所が違っただけです。KPIは約束と報告へ、メトリクスは情シスが毎日見る計器盤へ置きました。
目的:適切なデータを集め、文脈の中で正しく評価して、判断の不確かさを減らす
数字は、受け取る人が決めることから逆に選ぶ
1年目では 序 で出会ったしくみ。
報告の形が決まったところで、部長は去年の約束の表を指でなぞりました。
「正直に言うと、春からは、開かずに折っていました。緑なのは分かっていたので」
「アウトプットは毎月届けていたのに、アウトカムは見ていなかったんですね」と、新しいリーダーは言いました。紙は12回届いた。いまの締めで何が痛いのかは、その紙のどこにも書いていなかった。
その6行を、新しいリーダーは1行ずつ読み直しました。どの行も、去年の痛みの形をしていました。
「締めの3営業日、中断0回」。去年の春、締めの最終日に精算が固まり、経理の担当者は画面の端のメモ帳に明細を書き写して身を守っていた。その痛みが、この1行になった。ところが精算は去年の10月に外のクラウドのサービスへ移り、それから一度も止まっていません。守られているのに、もう何も知らせてくれない行です。
「止まったときに戻すまで30分以内」は、情シスの手ではもう守れない行でした。精算を戻すのは、クラウドのサービスの会社です。情シスにできるのは、止まったと気づき、経理に知らせ、戻る見込みを伝えるところまで。
「最初の返事は1営業日以内」は平均0.4日。体験の2行も、半年のあいだ数字が動いていない。去年、件名のないメールで「最近、精算がしんどいです」と書いてきた若手の担当者は、今年は新人に入力の手引きを配る側にいます。そして、いま締めでいちばん痛い場所、二重の注文による請求の訂正には、行がありませんでした。
約束は、結んだ日の困りごとを写し取ります。困りごとが動いても、約束は動かない。動かない約束は、守りやすい。12回続いた緑は、よく守られた印であり、読み直す日がとうに来ていた印でもありました。ITILがサービスレベル管理の仕事に、目標を顧客と決めて測るところだけでなく、顧客と定期的に読み直すところまでを入れているのは、このためです。
新しい行を作るには、もう1つの席に着いてもらう必要がありました。注文アプリの約束の相手、営業本部の受注の課長です。
経理部の小さな会議室で、経理部長と受注の課長が、はじめて同じ机につきました。部長は訂正の一覧を、課長は取引先からの電話の記録を、それぞれ机に出しました。
2枚を並べると、日付がそろっていました。電話が多い日ほど、訂正も多い。経理部は伝票で、営業本部は電話で、同じ二度押しを見ていたのでした。
「うちの電話と、そちらの伝票は、同じものだったんですね」と課長が言い、部長は黙って、自分の一覧に課長の日付を書き写しました。
困っている席が2つあるなら、約束の行も、2つの席で持つ。訂正で困るのは経理部で、注文を受けるのは営業本部です。どちらか片方とだけ結んだ約束では、もう片方の困りごとが、また行の外にこぼれます。
二重の注文で、締めの3日に請求の訂正が増えている。経理部長と受注の課長と一緒に、約束の表に足す1行を作ります。
相手の業務の成果に近い数を選ぶ。稼働率は7月も100%だったのに、訂正は38件出ていた。返事の速さは、もう困りごとになっていない。
0件は、取引先の打ち間違いまで背負う約束になり、守れない。「前より減れば」では、緑か赤かを判定できない。去年までの水準を目安に、相手と決める。
数字を出す側が自分で緑を付けると、何に基づく緑なのかが見えなくなる。訂正で困る席と、注文を受ける席が、それぞれ判定する。
アプリの利用は半年で倍になった。年に1回では、痛む場所の動きに追いつかない。外したときだけ見るやり方だと、守られている行ほど読まれなくなる。
書き上げた行は、新しい約束の1行目になった。去年の「中断0回」は消さずに、止まった時間の行にまとめ直した。行を1本足すなら、どれかを軽くする。
| 項目 | 目標 | 判定する人 |
|---|---|---|
| 締めの3日に出る、二重の注文による請求の訂正 | 月5件以下 | 経理部長と受注の課長 |
| 精算と注文アプリが、締めの3日と出荷の締め切り前に止まった時間 | 0分 | 経理部長と受注の課長 |
| 止まったとき、情シスから経理と営業所へ最初の知らせが届くまで | 10分以内 | 受注の課長 |
| 締めのあとの問い「迷わず入力できた」(3か月ごとに聞く) | 9割 | 経理部長 |
読み直し:2月と8月。アプリの利用が5割以上増えたときは、その月にも。
外した行:「中断0回」は2行目に、「戻すまで30分」は3行目に置き換えた。「最初の返事」と「窓口の返事で困った」は、窓口の計器盤へ移した。
約束を読み直すのは、守れなかった行を探す作業ではありませんでした。守られているのに何も知らせない行を見つけて、いま痛い場所へ行を移す作業です。行を足すなら、どれかを軽くする。
目的:事業に基づく明確な目標を決め、それに対して提供の状況を評価し、管理する
約束は、去年の痛みの形をしている。だから読み直す
1年目では 第5話 で出会ったしくみ。
6ページの案には、「稼働率99.95%」の行が2本ありました。精算と、注文アプリです。
精算のクラウドサービスの契約書を開くと、稼働についての約束は「月間の稼働率99.9%」の1行だけでした。「契約を99.95%に上げてもらうよう、交渉しましょう」と、中途のメンバーは言いました。
前のリーダーは去年の春、経理部長に、99.9%を止まっている時間に戻して見せています。あのときの数字は、自社のサーバーが実際に止まった時間でした。今度の99.9%は中身が違う。外の会社の契約が「ここまでなら止まってもかまわない」と認めている時間です。同じ体験を、もう一度開いてみました。今度は、外の会社に許した時間として、ひと月の暦の上に置いてみる。注文アプリの「止まってはいけない時間」は、そのあとで受注の課長に聞くことにしました。
ひと月(30日)で止まってよい時間:
暦の上で見ると、中途のメンバーの99.95%でも、止まってよい時間は22分ほど残ります。それが締めの最終日に来れば、経理にとっては同じことです。「パーセントを上げても、いつ止まるかは決まらないんですね」と、中途のメンバーは画面を見たまま言いました。
精算の契約は、99.9%のまま残しました。その代わり、ベンダーと取り決めを1つ足しています。締めの3営業日には、計画した停止を入れない。止まってよい43分が、締めの3日に来ないようにする約束です。数字を上げる交渉より、ずっと短い話し合いで済みました。ベンダーの担当者は電話口で少し笑って、「月末を避けてほしいというお客様は多いんです。でも、紙に書いてほしいと言われたのは、はじめてです」と言いました。
同じことを、注文アプリでも聞きました。受注の課長が挙げた「困る時間」は、出荷の締め切り前と月末の3日。それに、連休の前と年末でした。どれも、取引先の店の暦です。情シスの記録をいくら見ても、この4つは出てきません。その4つの時間には更新の作業を入れず、万一止まったら締め切りを延ばしてFAXに切り替える。その手順も、課長と営業所で決めました。
もうひとつ、分かったことがありました。この夏、注文アプリは一度も止まっていません。7月の稼働率は100%です。それなのに、取引先は締め切りの前に注文できなかった。止まっていないのに、使えない。受注の課長の「止まってないのに」は、稼働率の数字をどれだけ眺めても見つからない困りごとでした。
99.9%は、止まってよい43分の約束です。その43分がいつ来てよいかを書かないと、約束を守ったまま、締めの日に止まる。可用性の目標は、パーセントより先に「困る時間」を相手に聞いて決める。
目的:顧客と利用者のニーズを満たす、合意した水準の可用性をサービスに保たせる
どの43分なら止まってよいかまで、約束に書く
1年目では 序 で出会ったしくみ。
8月の最後の週、出荷の締め切りが近づいたころに、窓口の電話が鳴りました。いちばん早く受話器を取ったのは、新しいリーダーです。ヘルプデスクの席にいたころから、電話が鳴ると、誰より先に手が伸びる。受注の課長でした。
「また回ってます。取引先から営業所に、電話が何本も来てる」
「決まりなので、窓口にも入れておいてください」。そう言いながら、新しいリーダーは、もう中途のメンバーの画面の前に立っていました。
画面の中で、アプリのサーバーの使用率は100%に張りついていました。締め切りを過ぎると、すっと15%まで落ちていく。
名人なら、ここで再起動を考えたかもしれません。中途のメンバーは再起動しませんでした。止まっているわけではない。山を越えれば戻る。代わりに、この夏の注文の記録を全部さかのぼって、締め切りまでの時間ごとに並べました。
出てきた形は、はっきりしていました。1日の注文の半分近くが、締め切り前の30分に集まっている。取引先が倍になって、その30分だけが崖を越えた。遅いと、取引先はもう一度ボタンを押す。2回押せば、注文が2つ入る。経理部長が持ってきた訂正の一覧と、同じ形でした。
「サーバーを倍にしましょう。年に120万円ほどです」。中途のメンバーの答えは早かった。
間違ってはいません。ただ、その120万円は、1日のうち30分のために、1年じゅう払うお金です。
前のリーダーなら、ここでどうしただろう。一瞬そう考えて、やめました。分からないことは、分かる席に聞けばいい。サーバーのことは中途のメンバーに、取引先のことは受注の課長に。課長に聞いたのは、1つだけです。なぜ、取引先はみんな最後の30分に注文するのか。
課長の答えは、取引先の店の事情でした。店の冷凍庫の扉を開けて、ケースの数を数えてから、スマートフォンを出す。だから、どうしても締め切りの直前になる。
「それと、注文の7割は、前の日とまったく同じなんです。唐揚げ何ケース、コロッケ何ケース。それを毎日、打ち直してる」
注文アプリの利用は春の倍。遅くなるのは、出荷の締め切り前の30分だけでした。年末の繁忙期の前に、容量の計画を1枚にします。
使用率が上がるのは締め切り前の30分だけで、ほかの時間は15%ほど。山の場所が分かれば、打ち手を山に絞れる。
利用者が倍でも、山は倍では済まない。全員が同じ30分に集まるから。年末の見込みは、去年の注文の記録から受注の課長が出した。
締め切り前の30分、使用率が100%に張りついていたのはアプリのサーバーだけだった。基幹への受け渡しは、注文がまとまって届いても順に流せる。
注文の7割は前の日と同じ中身だった。前日に予約できれば、締め切り前に入れるのは変える分だけになる。足りない年末だけ足せば、1年じゅう払わずに済む。お願いの文書では、取引先の店の事情は変わらない。
容量の計画は、次の山の前に測り直して確かめる。電話が来てからでは、取引先がもう2回押している。
計画の1枚を見た受注の課長は、「年末の山、去年より大きくなりますよ。新しい取引先が40軒増えたので」と書き足した。需要の暦は、情シスだけでは書けない。
開発チームは、前の日のうちに「いつもの注文」を予約できる機能と、注文のボタンを1回押したら押せなくなる直しを、9月の半ばまでに出すことになりました。年末の繁忙期だけは、クラウドの容量を2週間足す。管理本部長に出した見積もりは、1年じゅう倍にする案の5分の1でした。
計画の紙を見ながら、中途のメンバーがつぶやきました。「年末の山が、見込みより大きかったら」
新しいリーダーは、計画のいちばん下の欄を指さしました。年末の2週間前に、もう一度測る。外れていたら、そこで足す。外れたときに何をするかまで、紙に書いてある。中途のメンバーはしばらくその欄を見てから、本の付箋を1枚、別のページに貼り替えました。
足りないと言われたら、まず山の形を見る。山がどこに、なぜできるのかが分かれば、増やすのは山の高さの分だけで済みます。山の理由は、サーバーの画面の中より、取引先の店の冷凍庫の前にありました。
目的:今と将来の需要を費用に見合う形で満たし、期待どおりの性能を出させる
増やす前に、山の形を見る
1年目では 第2話 で出会ったしくみ。
約束は4行に、報告は1枚に戻りました。二重の注文は、まだゼロではありません。それでも4つの席の子は、怖がっていたものの置き場所を、それぞれ見つけています。
怖がっていたこと12か月、緑の紙を受け取り続けても、それで何を決めればいいのか分からないこと
怖がっていたこと数字にしていない場所で事故が起き、そこにいた誰かが責められること
怖がっていたことアプリが使えていないことを、取引先からの電話で最後に知ること
怖がっていたこといちばん注文したいときに限って、画面が先へ進まないこと
約束を結び直す、数字を選び直す、止まってよい時間を決める、山の形を見る。4つのしくみは、どれも同じ問いから始まっていました。相手は、いつ、何に困るのか。
番号と分類はITIL 4の並べ方です。ITIL 5の試験で押さえるのは「プラクティス=資源のまとまり」と2つのグループまで。
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
9月のはじめ、8月分の報告書を経理部へ届けました。紙は1枚。いちばん上に「今月決めること:締めの段取りを、来月も同じでいくか」。その下に、数字が3つ。請求の訂正は、まだ33件ありました。予約の機能が入るのは、9月の半ばからです。
3つの数字に目を通すと、部長は「来月も同じで。予約が入ったら、もう一度見ます」と言いました。それから紙を二つに折って、胸ポケットにしまいました。
情シスの壁の画面には、中途のメンバーの24個が並ぶようになりました。締め切り前の30分の応答時間の欄だけ、枠が太くしてあります。名人が戻ってきたら、最初に見せるつもりだそうです。
席に戻ると、新しいリーダーは引き継ぎの資料を開き、前のリーダーの1行の「7月」に線を引いて、横に「2月と8月」と書きました。人の字の上に線を引くのは、思っていたより重い作業でした。ペンが一度止まる。それから、8月の余白を書きました。
約束(サービスレベル管理):約束は、結んだ日の痛みの形をしている。痛む場所が動いたら、行を入れ替える。守られている行ほど読まれなくなるから、読み直す日は先に決めておく。
報告(測定および報告):数字を並べる前に、受け取る人に「これで何を決めますか」と聞く。決めることにつながらない数字は、捨てずに計器盤へ。
止まってよい時間(可用性管理):99.9%は、止まってよい43分の約束。どの43分ならいいかまで書く。
量と速さ(キャパシティとパフォーマンス管理):増やす前に、山の形を見る。山の理由は、使う人の側にある。
計器盤では、中途のメンバーの24個が毎日動いている。あの数字がなければ、二重の注文の形は見えなかった。
Q1. 注文アプリには、取引先が品物を選んで注文するという機能はそろっている。7月の稼働率も100%だった。それでも出荷の締め切り前の30分だけ、注文が集まって画面が先へ進まない。サービスの4つの価値特性のうち、足りていないのはどれか。
B。保証は、約束どおりに使えるか(fit for use)を表し、可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性がここに入ります。注文できるという機能、つまり有用性(fit for purpose)はそろっていて、足りないのは混む30分に応える容量です。画面が回り続けて取引先がもう一度押してしまうのはユーザー体験にも響きますが、根っこは保証の側にあります。
Q2. 約束の行ごとに「判定する人」(経理部長、受注の課長)を書き、情シスは自分の行に自分で緑を付けないことにした。主に4つの側面のどれを決めたことになるか。
A。誰がどの役割と責任を持つかは、組織と人材の側面です。約束の表や計器盤という情報の置き場は情報と技術、クラウドの会社との取り決めはパートナーとサプライヤー、測って報告して読み直す流れはバリューストリームとプロセスの側面にあたります。