冷凍食品の会社の情シスで過ごす、1年の話です。出てくるのは、悪人のいないトラブルばかり。誰もがまじめに自分を守った結果、仕組みのほうが詰まっていく。その詰まり方に、ITILはひとつずつ名前を付けています。
スーパーの惣菜売り場で揚げ直されている唐揚げやコロッケ。あれの、揚げる前を作っている会社です。工場は北関東に2つと九州に1つ。営業所が全国に8つ。社員はパートさんまで入れて900人ほど。情シスは7人です。
このチームには、業務を説明した文書が1枚もありません。依頼は、社員が「この人に言えば早い」と知っている担当者に、個別のチャットやメールで直接届く。担当者はそれを、その場の判断で片付ける。対応の記録は残らないので、何が何件来ているのかも、誰も知らない。「その作業、何に基づいてやったの?」と聞かれても、誰も答えられない。
サーバーの調子が悪いときは、ベテランが再起動して直す。何がどこにつながっているかは、ベテランの頭の中にしかない。それでも毎月の報告書は、全部緑です。
この春、チームの中から一人がリーダーになりました。PCとアカウントの仕事を5年やってきた人で、自分もこのやり方で回してきた側です。変わったのは、座る席だけ。この人を「リーダー」と呼びます。
登場人物には名前を付けていません。役職で呼びます。この物語では、人柄よりどの席に座っているかのほうが、その人の言動をよく説明するからです。どの席の人にも、そう振る舞うだけの理由があります。
主人公。この春、チームの中からリーダーになった。去年までは、いまのやり方で回してきた側の人。
6年前の大障害のとき、役員会で半年頭を下げ続けた人。だから、波風を立てたくない。
緑の月次報告を作った人。この会社のサーバーをいちばん知っている。知っているぶん、手放せない。
入社3年目。電話が鳴ると、ほかの6人のぶんまで出てしまう。
怒鳴らない。黙って、記録を持ってくる。
口ぐせは「止めるな、変えるな」。ラインを1本止めると、何が何個無駄になるかを知っている。
新しいものが好き。決めるのも早いが、やめるのも早い。
予算を握る人と、中期計画に「DX」と書いた人。DXの中身は、まだ誰も知らない。
契約に書いてあることは、きっちりやる。書いていないことは、やらない。
この物語には、もうひとつの登場人物がいます。席のうしろの小さな子たち、せきのこです。
子は人ではなく、席につく。その席に座れば、誰でも同じ子を背負います。言葉がきつくなるのは、たいてい、うしろの子が何かを怖がっているときです。子が落ち着くと、影が小さくなります。
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
各話では、子が2回出てきます。もめごとの途中でうしろを見ると、その席の子が何を怖がっているのかが見える。話の終わり近くでしくみを置くと、子が落ち着き、そのしくみのITILでの名前が分かります。
この名前が、ITILの34のプラクティスです。人・手順・道具・情報・外の会社をまとめた、仕事のためのしくみ。12の話で、34個すべてに出会います。どの話から読んでも、その話の中で完結します。
この物語でITILは、ある日まとめて「導入」されるものとしては出てきません。いまのやり方を全部捨てるのでも、そのまま残すのでもなく、困りごとが起きた場所から一つずつ、「何に基づいて」を書き足していく。ITILの原則でいえば、現状からはじめる(start where you are)と、フィードバックをもとに反復して進化する(progress iteratively with feedback)です。
そのたびに、手順と一緒に、チームのメンバーが「これが正しい」と思ってきたことも入れ替わります。全部緑の報告書は6年前の大障害のあとで、個人あてのチャットは7人で900人を支える毎日の中で、どちらもいちばん合理的なやり方でした。だから責めずに、入れ替える。
各話の終わりには、その回で入れ替わった「正解」と「価値観」、メンバーの仕事で変わることを、1枚にまとめています。
読み終えた回には「読了」の印が付きます。
2年目。元ヘルプデスク担当がリーダーの席を継ぎます。1年目に作ったしくみは全部残っているのに、新しいリーダーは、それがなぜそこにあるのかを自分の言葉で言ったことがない。第2部では、あなたもその隣の席に座り、34のしくみを一つずつ手で使います。カードを作り、優先度を地図に置き、段取りを並べる。使ったあとで、そのしくみの全体の形(解剖図)を見ます。
第1部で出会い、第2部で使う。調べたいときは 34のしくみ図鑑 へ。どの話も、その話の中で完結します。
回によっては、リーダーの代わりにあなたが選ぶ場面があります。選んだ手はこのブラウザの中にだけ残り、外には送られません。
物語は「分かる」を、教材は「覚えているか確かめる」を受け持ちます。