目次

窓口にAIを置く

AIは、とうに変わった決まりを、自信たっぷりに答えた。

票番号02-011
報告者経理部
件名窓口のAIが、古い経費の上限を答えた
状態調査中
前回の名前、思い出せますか?(開くと答え)

資源の組み合わせ=product、コストとリスクを抱えずに成果を得られるようにするもの=service。外へ届ける流れ=core、内側で支える流れ=enabling。図にする=mapping、責任者と指標で改善し続ける=management。開発と運用の文化=DevOps、一時的な取り組みの手法=PRINCE2。

FIRSTAIは、迷わずに間違える

AIは、読ませたものの品質を超えられません。
そして、AIを入れることは、AIを統制することではありません。

窓口にAIを置いて、最初に見つかったのは、AIの弱さとは別のものでした。

SCENE試しに動かした初日

経営会議が選んだ4件のひとつ、窓口のAI。計画書には「問い合わせの半分を、生成AIが答える」とありました。社内の共有フォルダにある手引きや規程を読ませ、チャットで社員の質問に答えさせる。

試しに動かした初日、経理部の若手がこう聞きました。

窓口のAI(試験運用)
経理の担当者得意先との会食の経費、一人いくらまで精算できますか?
AI一人あたり5,000円までです。超える場合は、事前に部長の承認が必要です。参照:経費精算の手引き_v2.pdf(共有フォルダ・3年前)
図1 AIの答えは、3年前の手引きのとおりだった。上限は2年前に8,000円に変わり、新しい手引きは別のフォルダにあった。

若手は、その答えを信じて申請を5,000円に収め、差額を自分で払いました。気づいたのは、経理部長でした。会食の申請が、ちょうど5,000円で止まっているのが引っかかったそうです。

同じ週、もうひとつ見つかったことがあります。情シスのメンバーの一人が、社員の口座の変更依頼の書き方を聞くために、依頼のメールを丸ごとAIのチャットに貼り付けていた。そこには、その社員の口座番号が書いてありました。

WITNESS3つの席から

ヘルプデスク担当

「正直に言うと、最初は怖かったです。半分をAIが答えるなら、わたしの仕事は半分になるのかなって。でも、同じ説明を週に何十回もしなくていいなら、それはうれしい。わたしがやりたいのは、本当に困っている人の話を聞くほうなので」

見えていたもの:自分の仕事の行き先
経理部長

「AIが間違えるのは、仕方ないと思います。困るのは、間違っているのに、ちゃんとした言い方で答えることです。人なら『たぶん』と言うところを、AIは言い切る。それと、間違えたとき、誰の責任なのかが分からない」

見えていたもの:言い切る答えと、責任の行き場
総務の担当者(個人情報のルールの持ち主)

「ツールを入れたから安全、ではないんです。口座番号を貼った件は、使い方の決まりがなかったから起きた。ベンダーの覚書のときと同じで、預けるなら、何を預けていいかを先に決めてほしい」

見えていたもの:預けてはいけないもの

BEHINDAIが来た窓口で、3つの席が身構えた

うしろを見る

3つの席の言い分は、AIの話に見えて、AIの話ではありませんでした。うしろを見ます。

子は人ではなく、席につく。言葉がきつくなるのは、うしろの子が何かを怖がっているとき。6体の紹介は地図に

本社
経理部長

「間違っているのに、ちゃんとした言い方で答える。それが困るんです」

もやすけ未翻訳

怖いのはどの答えが正しいのか見分けがつかないまま、部下がそれを信じて動くこと

本社
総務の担当者

「ツールを入れたから安全、ではないんです」

くうらん懸念

怖いのは何を預けてはいけないかが決まっていないまま、便利なものが先に広がること

情シス
ヘルプデスク担当

「半分をAIが答えるなら、わたしの仕事は半分になるのかなって」

ぽつん面子

怖いのはAIが来て、窓口の自分の席がなくなること

せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち

KINDそもそも、どれがAIなのか

立て直しの前に、リーダーはチームで言葉をそろえました。窓口で「自動で動いているもの」には、性質の違う3種類が混ざっていたからです。

AIではない

従来の自動化

traditional automation決まったルールどおりに動く。学ばない。
例:件名に「パスワード」とあれば、窓口のパスワード担当に回す(第1話から動いている振り分け)
AI

生成AI

generative AI文章などの新しい内容を作る。
例:問い合わせへの返事の下書きを作る。人が確かめて送る
AI

エージェント型AI

agentic AI決められた目標と範囲の中で、自分で考え、判断し、動く。
例:お願いカードの条件を満たす共有フォルダの権限を、持ち主の承認を確かめてから自分で付け、記録を残す
図2 自動で動くものの3種類。AIが違うのは、決まったルールに従うだけでなく、学び、推論できる点。

計画書の「半分をAIが答える」は、この3つを区別していませんでした。リーダーは、試験運用の範囲を、生成AIによる「答えの下書き」と「カードにある答えの案内」に絞りました。エージェント型AIは、カードの条件がはっきりしている「決まった権限の付与」だけに、範囲を限って試すことにした。

SOURCEAIに読ませる正本を、決める

リーダーが共有フォルダを開くと、AIが読んだ「経費精算の手引き_v2.pdf」が、3年前の日付のまま残っていました。新しい手引きは、別のフォルダの奥にある。どちらが今の正しいものか、どこにも書いていませんでした。

AIは、間違えたわけではありません。読ませたものどおりに答えたのです。第4話の「3年前のサーバー一覧」と、まったく同じ形です。

読み解き

人は、古い手引きを見ると「これ、古くないか」と疑います。日付を見たり、隣の人に聞いたりする。AIは、疑わない。読ませたものを、同じ重さで信じて、同じ自信で答える。

だから、AIを入れるときに一番効くのは、AIの性能ではありません。AIに読ませるものを、どれだけ正しく、新しく保てるかです。そして、この会社には、それがすでに半分できていました。第1話のお願いカード、第2話の既知のエラーのカード、第4話の台帳。1年かけて書き足してきた「何に基づいて」が、そのままAIに読ませる正本になる。

リーダーは、窓口のAIを3つの層で組み直しました。

正本カード・台帳・手引きAIが読んでよいのはここだけ。各カードに持ち主と「最後に確かめた日」を書く。古いフォルダは読ませない
AI生成AI・エージェント型AI正本を読んで答えの下書きを作る。答えには必ず、どのカードを見たかを添える。決めた範囲の外は答えず、人に回す
人窓口の担当者AIの答えを確かめて送る。お金・個人情報・例外の判断が絡むものは、必ず人が決める。間違いを見つけたら、正本を直す
図3 窓口のAIの3つの層。AIの答えの品質は、いちばん上の正本の品質で決まる。責任は、いちばん下の人に残る。

あわせて、使い方の決まりも作りました。個人情報や口座番号は、AIのチャットに入れない。AIが答えてよいのは、カードのあるお願いと、既知のエラーだけ。

決まりを書き上げたとき、総務の担当者が言いました。「これは、情シスと総務で決めて終わりにしないほうがいいです。経営会議に出して、四半期ごとに守られているかを見てもらう。20件を選んだときと同じガバナンスの流れに、AIも乗せましょう」

AIガバナンスと人による監督
AI governance / human oversight / responsible AI

AI governanceは、AIを責任をもって、倫理的に、統制のもとで使うための方針・役割・責任・管理策の枠組み。AIのツールを導入しただけではガバナンスにならない。human oversightは、任せきりにせず人が適切に見張り、関わること。データの品質とプライバシーがAIガバナンスの土台になる。responsible AIは、透明性・説明責任・倫理的な利用を重んじる考え方。

古い手引きを読ませない(データの品質)、口座番号を入れない(プライバシー)、お金と例外は人が決める(人による監督)、決まりを経営会議が確かめる(ガバナンス)。

CAPABILITYAIの「できること」に名前を付ける

経理部長の「間違えたとき、誰の責任か分からない」に答えるために、リーダーは、窓口のAIが何をしているのかを、能力ごとに分けて書き出しました。ITIL 5の教材では、AIの能力を6つに分類し、それぞれにリスクと管理策を対応させるAI能力モデル(頭文字から6Cモデルと呼ばれる)が紹介されています。

創出Creation返事の下書きを作る
キュレーションCuration大量のカードから関係するものを選ぶ
明確化Clarificationあいまいな質問を整理する
認知Cognition(今回は使わない)需要の予測など
コミュニケーションCommunication社員と自然な言葉でやりとりする
コーディネーションCoordination(範囲を限って試す)決まった権限を付ける処理を指揮する
図4 窓口のAIが使う能力。能力ごとに「何がまずいと困るか」と「誰が確かめるか」を決めた。※6つの名前は第三者の教材によるもの。試験の前に、公式教材で確かめてください。

ただし、このモデルは能力を分類して、リスクに名前を付ける道具です。分類しただけでは、統制にはならない。統制するのは、さっきのAIガバナンスのほうです。

AFTER半分には、届かなかった

1か月後、AIが下書きを作り、人が確かめてそのまま送れた問い合わせは、全体の38%でした。計画書の「半分」には届かない。でも、間違った答えを送った件は、確かめる人のところで全部止まりました。

経理部長は、その数字を見て言いました。「38%で、かまいません。それより、締めのときと同じようにXLAの行を足してください。AIに聞いた人が、あとで困らなかったか。答えた件数を数えても、差額を自分で払ったうちの若手は出てきませんから」

ヘルプデスク担当の仕事は、減りませんでした。変わりました。AIが「カードがないので答えられません」と返した質問を集めて、新しいカードを書く。古くなったカードを見つけて直す。いまでは、チームでいちばんカードを書いている人です。

「AIの先生みたいなことをしてます」と、本人は少しうれしそうに言いました。

RELIEFAIの性能は同じまま、子だけが落ち着いた

しくみを置く

AIの性能は、何も変わっていません。変わったのは、AIに読ませるものと、使い方の決まりと、人の役目です。

経理部長のうしろのもやすけ

怖がっていたことどの答えが正しいのか見分けがつかないまま、部下がそれを信じて動くこと

No.5|ITIL 4の分類:一般管理
ナレッジ管理
Knowledge management
目的
組織の情報と知識を、効果的・効率的・便利に使える状態に保ち、良くしていく
この話では
新旧の手引きが並んでいた共有フォルダから正本を決め、AIはカードにある答えだけを案内するようにした
ほっとしたのは
AIに読ませる正本が決まり、古い手引きが外され、カードに確かめた日が付いたこと
総務の担当者のうしろのくうらん

怖がっていたこと何を預けてはいけないかが決まっていないまま、便利なものが先に広がること

No.4|ITIL 4の分類:一般管理
情報セキュリティ管理
Information security management
目的
事業を続けるのに必要な情報を守る
この話では
預けてよいものとだめなものを先に決め、AIのチャットに入れない情報を決まりにした
ほっとしたのは
個人情報や口座番号はAIに入れない、という使い方の決まり
ヘルプデスク担当のうしろのぽつん再登場

怖がっていたことAIが来て、窓口の自分の席がなくなること

No.14|ITIL 4の分類:一般管理
要員およびタレント管理
Workforce and talent management
目的
事業目標を支えるために、適切なスキルと知識を持つ人を、適切な役割に置く
この話では
仕事を減らす代わりに、役割を置き直した。困っている人の話を聞き、カードを育てる側へ
ほっとしたのは
AIが答えられなかった質問からカードを作る、という新しい役目

3体目の子を落ち着かせたのは、第2話で名人の子に置いたのと同じしくみでした。しくみは、新しい道具が来るたびに置き直すものです。

番号と分類はITIL 4の並べ方です。ITIL 5の試験で押さえるのは「プラクティス=資源のまとまり」と2つのグループまで。

せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち

SHIFT正解が、入れ替わる

新しい経費の手引きには、持ち主の欄に「経理部」と書き込まれました。書き込んだのは、経理部長です。「最後に確かめた日」の欄にも、その日の日付が入りました。

経営会議が決めた「AIで問い合わせの半分を減らす」は、方向としては正しかった。少ない人数で回すために、AIは大きな助けになる。ただ、AIの力を決めていたのは、AIそのものより、AIに読ませるものと、AIを見張る人のほうでした。

この回で入れ替わった正解
正解
今までAIを入れれば、窓口が楽になる
→
これからAIに読ませる正本を整えた分だけ、窓口が楽になる
責任
今までAIが答えたことは、AIの答え
→
これからAIが答えたことも、確かめて送った人と、正本の持ち主が責任を持つ
価値観
今までAIに仕事を取られる
→
これからAIが読む正本を育てるのが、人の仕事になる
ITILの言葉
今まで自動で動くものは全部「AI」
→
これから従来の自動化・生成AI・エージェント型AIを分ける。AIガバナンスと人による監督。土台はデータの品質とプライバシー

メンバーの仕事で変わること

  • カードに、持ち主と最後に確かめた日を書く
  • AIの答えを送る前に、添えられたカードを開いて確かめる
  • 個人情報は、AIのチャットに入れない

その代わりに手に入るもの

  • 同じ説明を何十回もしなくていい
  • 本当に困っている人の話に、時間を使える
  • 書いたカードが、毎日だれかの役に立つ
残った問い 3月の締めの最終日。北関東に大雪が降り、第二工場の一帯が停電しました。工場のサーバー室の非常用電源は、30分しかもたない。インフラ担当は雪で家から出られない。そして同じころ、全社員あてに1通のメールが届きます。「停電の復旧作業のため、アカウントの再認証をお願いします」

この回で付いた名前

人工知能artificial intelligence(AI)人の知能が必要な作業をこなす技術。学び、推論できる点で従来の自動化と違う
従来の自動化traditional automation決まったルールどおりに動く。学ばない。AIではない
生成AIgenerative AI文章・画像・コードなど新しい内容を作る
エージェント型AIagentic AI決められた目標と範囲の中で、自分で考え、判断し、動く。責任は人に残る
AIガバナンスAI governanceAIを責任をもって統制して使うための方針・役割・責任・管理策。導入しただけではガバナンスにならない
人による監督human oversight任せきりにせず、人が見張り、関わる
AI能力モデル(6C)ITIL AI capability modelAIの能力を6つに分類し、リスクと管理策を対応させる評価の道具。統制するのはガバナンス

もっと詳しく:ITIL 5 解説ガイド(AI入門/ITILのAIガバナンス)

CHECK確かめる

Q1. 試験運用で、ある仕組みに「お願いカードの条件を満たす共有フォルダの権限は、持ち主の承認を確かめてから自分で付け、記録を残す」という範囲を与えた。この仕組みはどれにあたるか。

  1. A従来の自動化 traditional automation
  2. B生成AI generative AI
  3. Cエージェント型AI agentic AI
  4. DAI能力モデル ITIL AI capability model
答えを開く

C。決められた目標と範囲の中で、自分で判断して処理まで動くのがエージェント型AIです。返事の下書きを作るだけなら生成AI、件名で担当に回すだけの決まったルールなら従来の自動化(AIではない)です。AIの領域は、ITIL 5で新しく試験範囲に入りました。

Q2. 窓口のAIについて、古い手引きは読ませない、口座番号はチャットに入れない、お金と例外の判断は人が決める、と決めた。決まりは経営会議に出し、四半期ごとに守られているかを確かめてもらう。これをもっともよく表すのはどれか。

  1. AAIガバナンス。人による監督と、データの品質・プライバシーを土台にした統制の枠組み
  2. BAI能力モデル(6C)。AIの能力を分類して、リスクに名前を付ける道具
  3. C生成AIのツールを導入したこと。導入すれば、統制も済んでいる
  4. D従来の自動化。決まったルールどおりに動かすこと
答えを開く

A。AIを責任をもって使うための方針・役割・責任・管理策の枠組みがAIガバナンスです。6Cモデルは能力を分類する評価の道具で、統制するのはガバナンスのほう。ツールを入れただけでは、ガバナンスになりません。