15%上がる理由を聞く前に、払っている数を数えた。辞めたはずの人が、先週もログインしていた。
値上げの知らせは、メール1通で来ました。
見つかったのは、値上げよりずっと古い穴でした。
値上げを告げられたら、道はたいてい2つしか見えません。受け入れるか、乗り換えるか。この回の情シスは、どちらの道に進む前に、請求書の数字を1つ数えています。
9月、チームで「名人」と呼ばれているインフラ担当が、2か月の育休から戻りました。机の上には、留守のあいだに通った変更カードが、1冊の束になって置いてありました。最後の1枚まで黙ってめくって、名人は「カードに書いてあるとおりですね」とだけ言いました。束をそろえて机の端に置き、しばらく、その上に手を乗せたままでいました。
2か月のあいだに、名人の電話が鳴ったのは一度だけです。それも、間違い電話でした。
同じ日に、メールが1通届きました。差出人は、社員のアカウントをまとめて預かっているクラウドのサービスの会社です。社員が1つのIDでメールにも精算にも共有フォルダにも入れるのも、自分でパスワードを戻せる画面も、このサービスが受け持っています。
知らせを管理本部長に回したのは、新しいリーダーです。元はヘルプデスクの席にいて、前のリーダーが4月に本社の経営企画へ移ったあと、この席を継ぎました。外の会社との契約の窓口も、引き継いだ仕事に入っています。管理本部長の返事は、一言でした。
「15%も上がるなら、来年の枠には入らない」
次の手を、中途のメンバーはもう考えていました。大手のSIerから4月に来た人で、机の端には、付箋だらけのITILの本が立っています。「更新は1月です。今のうちに3社から見積もりを取れば間に合います。乗り換えれば、たぶん1割は安くなる」
見積もりを頼む前に、新しいリーダーはベンダーの営業に電話をかけました。理由を聞きたい、と言うと、電話の向こうで少し間があきました。営業は理由を短く説明し、それから、声を落としました。
「知らせを出したあと、理由を聞いてくださるお客様は、半分もいないんです」
あとの半分は、黙って見積もりを集め、ある日、解約の書面だけを送ってくる。営業はそこまでは言いませんでした。
電話を切ってから、もう1つ確かめることにしました。ヘルプデスクにいたころ、アカウントを作るのは自分の仕事でした。新入社員が来るたびに作ったので、作った数なら覚えている。止めた数は、覚えていません。止めるのは、自分の仕事ではなかったからです。請求書にあるアカウントの数は、640。この640人は、本当にいま、会社にいるのか。
人事の担当者から在籍者の一覧をもらい、アカウントの一覧と1行ずつ突き合わせる。言葉にすれば、それだけの作業です。ところが、人事の一覧は社員番号で並び、アカウントの一覧はメールアドレスで並んでいて、2つをつなぐ列がどこにもない。結婚して名字が変わった人、同じ名前の人、ローマ字の綴りが揺れている人。1人ずつ、目で確かめていくしかありませんでした。名人も手伝って、まる2日。
42件のうち41件は、ログインの記録が何か月も前で止まっていました。誰も使っていない入口が、41。
17件の中に1件だけ、最終ログインの日付が新しいものがありました。北関東営業所で事務をしていた人のアカウントです。退職は3月。最後のログインは、先週。
名人がログを追うと、入ってきたのは営業所の中のPCからでした。社内からのログインには、2つ目の確認を求めない設定です。開いていたのは、共有フォルダの「得意先別_見積」だけ。営業所に電話をかけると、いまの事務の担当者が、少し間を置いて答えました。
「4月に来た後任なんです」。そこで声が少し小さくなりました。「前の人のパスワードは、引き継ぎのメモに書いてあったので」
メモは、付箋1枚でした。IDとパスワードと、「見積フォルダはこれで開く」の一言。前任の人は、仕事を止めないために、いちばん確実なものを残していった。後任の人は、それで仕事を止めなかった。2人とも、自分の持ち場をまじめに守っていたのです。
隣で聞いていた中途のメンバーが、本の付箋のページを開きました。「本来は、退職日のうちに止まっていないといけません」。言っていることは正しい。ただ、その「本来」が、この会社では誰の仕事なのか。それを書いた紙は、まだどこにもありませんでした。
受話器を置くと、名人がぽつりと聞きました。
「人事の突き合わせは、いま誰がやってます?」
答えられる人はいませんでした。名人はホワイトボードの前に立ち、説明の前に、まず箱を描きました。
「前のリーダーは、月末にひとりで止めてました。人事から毎月、退職者の一覧がメールで来るので」
4月からは、そのメールが前のリーダーのアドレスから、窓口へ転送されるようになっていました。窓口はそれを受け付け、その日のうちに「お知らせ」として閉じた。何をすればいいかを書いたカードが、なかったからです。窓口は、決まりどおりに動いていました。
引き継ぎの資料の目次に、この仕事はありません。
17件のうち11件は、4月より後に辞めた人でした。残りの6件は、それより前です。工場のパートさんの退職は、人事の一覧ではなく工場の事務から別の紙で回っていて、前のリーダーの手にも届いていなかった。
新しいリーダーは、その6件の行を、しばらく見ていました。4月から、比べられるのはいつも前のリーダーでした。前のリーダーなら、こうした。前のリーダーなら、知っていた。その人の手にも、こぼれていたものがあった。安心したのとは少し違う。ただ、引き継ぎの資料の目次が、急に、書き足してもいいものに見えました。
値上げを知らせた側、枠を預かる側、メモを受け取った側、穴に気づいた側。4つの席のうしろを見ます。
子は人ではなく、席につく。言葉がきつくなるのは、うしろの子が何かを怖がっているとき。6体の紹介は地図に
「15%も上がるなら、来年の枠には入らない」
怖いのは何にいくら払っているのか分からないまま、値上げの分だけ来年の枠があふれること
「知らせを出したあと、理由を聞いてくださるお客様は、半分もいないんです」
怖いのは理由を聞かれないまま、長い付き合いの客から、ある日解約の知らせだけが届くこと
「前の人のパスワードは、引き継ぎのメモに書いてあったので」
怖いのは前任のアカウントを使ってはいけないことも、自分の権限を頼む手順も、誰からも知らされていなかったこと
「人事の突き合わせは、いま誰がやってます?」
怖いのは毎月誰かが手でふさいでいた穴が、その人が席を立った日から、空いたままになること
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
ベンダーの営業は、技術の担当を連れて来ました。別添の資料を、1ページずつ説明していく。
理由は2つありました。1つは円安です。サービスを動かしているデータセンターの費用を、ドルで払っている。もう1つは、不正なログインの試み。この1年で3倍に増え、見張る人を増やし、社外から入るときの多要素認証をすべての契約に入れた。「御社でも、先月だけで、外からの不正なログインの試みを1,200回止めています」。技術の担当はそう言って、記録の紙を机に置きました。
資料の最後には、1年分の実績も並んでいました。止まったのは1回、休日に18分だけ。社員が自分でパスワードを戻した回数は、月に200回を超えています。窓口にパスワードの依頼がほとんど来ないのも、このサービスがあるからでした。値上げの知らせだけを見ていたら、どれも目に入らなかった数字です。
条件も2つ出てきました。3年の契約なら、値上げを8%に抑える。更新の前に使っていないアカウントを整理してくれれば、その分は請求しない。
新しいリーダーは、突き合わせの結果を机に出して、1つだけ頼みました。最終ログインの日付の一覧を、毎月送ってほしい。営業は、その場でうなずきました。「もともと、お客様の管理画面から出せるものです。毎月お送りします」
中途のメンバーは、説明を聞きながら資料に付箋を3枚貼り、それでも3社の見積もりの話は引っこめませんでした。「乗り換えも含めて比べるのが、本来の選び方です」
比べる前に、新しいリーダーは、このサービスがどれくらい重い相手かを書き出してみました。止まれば、社員はメールにも精算にも入れない。乗り換えるなら、598人分の登録をし直し、つないでいる14のシステムの設定を全部変えることになる。半年はかかります。新入社員30人を迎えた4月の山を、全社でもう一度やるようなものです。
外の会社には、それぞれ付き合いの濃さがあります。値段で選び直していい相手もいれば、先の計画を一緒に立てる相手もいる。このサービスは、どう見ても後者でした。なのにこの1年、会社がこのベンダーと話したのは、請求書が届いたときだけです。値上げの知らせが、1年ぶりの会話でした。
外の会社を選ぶときには、どの会社も時間をかけます。覚書を送り、チェックシートを読み、何社も比べる。ところが、選び終えた相手とは、急に話さなくなる。止まりもせず、文句もないあいだは、それでいいように見えるからです。
値上げの知らせをきっかけに、情シスが頼っている外の会社を一覧にしました。止まったときの影響、乗り換えの難しさ、費用を見て、付き合いの濃さを決めます。
付き合いの濃さは、相手の会社の大きさで決まらない。こちらの頼り方で決まる。アカウント管理のサービスは「一緒に計画する」相手だった。それなのに、この1年で話したのは請求書が届くときだけだった。
止まると全社が止まる相手とは、値段の話より先に、1年分の実績を一緒に見る。比べるのをやめるわけではありません。3社の見積もりは、次の更新の半年前、慌てずに比べられる時期に取ることにしました。
目的:外部に頼っている部分の質と切れ目のなさを守り、重要な相手とは協力を深める
値上げの知らせを、実績を一緒に見る場に変える
1年目では 第6話 で出会ったしくみ。
管理本部長が知りたいのは、来年いくらになるか。それだけです。毎年この時期になると、本部長は社長から「ITの費用は、なぜ毎年増えるのか」と聞かれる。15%の値上げは、その答えをまた1つ難しくする知らせでした。
サービスの費用の話は、たいてい単価から始まります。15%上がる。1割下げてほしい。けれど年額は、数×単価×12か月で決まる。単価は相手のいる交渉ですが、数のほうは、こちらの一覧と人事の一覧を突き合わせれば、こちらの手で直せます。新しいリーダーは、値上げの知らせを、数と単価に分けて並べ直しました。
お金の資料を作るのは、はじめてです。迷った末に、経理部長に見せに行きました。8月に約束を読み直したばかりの相手です。部長は数字を上から指でたどり、1つだけ言いました。「今年との差を、いちばん下に1行で。本部長は、そこから読みますから」
単価は月500円から575円へ(15%)。請求のアカウントは640。人事の在籍者の一覧と突き合わせると、本当に要るのは598でした。ベンダーは、3年の契約なら値上げを8%(540円)に抑えると言っています。
まず、いま払っている額を、数×単価×月で出す。これが比べる土台になる。
640×575円×12か月。管理本部長の「枠に入らない」は、この数字を見たときの言葉。
598×575円×12か月。数を正すだけで、29万円下がる。
598×540円×12か月。値上げの15%は、要らない数を外すことと契約の長さで、ほとんど吸収できる。
費用と、それと引き換えに負うものを並べて出す。決めるのは管理本部長。3年の縛りは、リスクの地図にも置く。
数×単価×月に分けると、交渉できるのは単価、こちらで直せるのは数だと分かる。今回、先に効いたのは数のほうだった。
試算を見た管理本部長は、3行目で指を止めました。
「この42に、去年いくら払ってた?」
42×500円×12か月で、25万2千円。本部長は少し黙ってから、「値上げより、そっちのほうが痛いな」と言いました。
費用は、単価より先に数を見る。持ち主のいない42に払っていたお金は、そのまま、守れていなかった場所の大きさでもありました。何にいくら払っているかを言えることと、何を守っているかを言えることは、同じ一覧の上にあります。
目的:お金と投資が有効に使われるようにし、サービス管理の戦略と計画を支える
単価より先に、払っている数を数える
1年目では 第4話 で出会ったしくみ。
突き合わせの結果を総務の担当者に見せると、担当者は自分のファイルから1枚の紙を出してきました。去年、申請の電子化のサービスを選んだときに、前のリーダーと一緒に作ったリスクの地図です。
右上の「起きやすく、影響が大きい」のマスに、こう書いてありました。
「辞めた人のアカウントが、新しいサービスに残る」
紙には、持ち主の欄も、次に見直す日の欄もありませんでした。
「置いただけで、安心していました」と、総務の担当者は言いました。
リスクは、地図に置いた日から古くなります。置いたことで、扱ったような気になる。誰がどう扱うかを決め、決めた日にもう一度見るところまでやって、はじめて扱ったことになる。去年の地図は、半分まで来て止まっていました。
総務の担当者は、ベンダーの別添の資料にも目を通しました。値上げの理由の2行を指でたどって、短く言いました。
「円安は経済、不正なログインの増え方は技術。PESTLEでいえば、どちらもうちからは動かせない外部要因です」
動かせない理由に腹を立てても、扱い方は決まりません。地図に置くのは、それを受けてこちらが取る道のほうです。
今回は、更新の判断にまつわる気がかりも、同じ地図に並べました。3年の契約にすれば、乗り換えにくくなる。乗り換えれば、その最中が危うい。どちらを選んでも、リスクはゼロにならない。だから、どちらのリスクなら取ってよいかを決めます。決める席は、情シスのほかにもあります。お金の枠を持つ管理本部長と、預ける約束のルールを持つ総務の担当者が、同じ地図の前に座りました。
3年の契約にするか、乗り換えるか。決める前に、気がかりを起きやすさと影響の地図に置きます。
項目を1つ選んでから、マスを押してください。
手を打つのは、右上から。右下の2つは、まれでも大きいので備えを決める。左の2つは、理由を書いて受け入れる。どの行にも、持ち主と次に見直す日を書いた。
「3年も縛られて、途中でもっといいものが出たらどうする」と管理本部長が聞き、総務の担当者は「預け先を変えるたびに、覚書を結び直すほうが怖いです」と答えました。地図の前では、2人の心配が、同じ大きさで並びます。
3年の契約は、受け入れることにしました。もともと乗り換えに半年かかるサービスです。縛られる3年と、慌てて乗り換える半年を比べれば、縛られるほうが小さい。その代わり、契約に1行足してもらいました。やめるときに、アカウントの情報を決まった形で書き出してもらう手順です。出口が先に書いてあれば、縛られていても、閉じ込められはしない。
地図に置いた5つの気がかりには、それぞれ持ち主と日付を書きました。研修用の14件は人事の研修担当が持ち主になり、残すものだけに名前を付けて、ほかは止める。3年の契約の見直しは、3年後の夏です。その日付は、管理本部長の予定表にも入りました。
地図に置いたリスクは、持ち主と次に見る日がなければ、置いたまま起きる。去年の地図に足りなかったのは、その2つの欄でした。今年の地図には、行ごとに名前と日付が入っています。
目的:組織がリスクを理解し、うまく扱えるようにする。続くためにも、価値を出すためにも欠かせない
地図に置いたリスクには、持ち主と次に見る日を書く
1年目では 第6話 で出会ったしくみ。
北関東営業所のアカウントは、その日のうちに止めました。削除のボタンに手を伸ばした新しいリーダーを、中途のメンバーが止めました。
「消さずに止めてください。何に使われたか、あとで調べられなくなります」
中途のメンバーは、名人と2人でログを最後まで読みました。残っていたのは90日分。そのあいだに開かれたのは「得意先別_見積」だけで、外へ送られた形跡も、営業所の外から入った形跡もありませんでした。4月と5月に何があったかは、もう誰にも分からない。その1行を報告書に書いて、ログを1年残す設定に変えるようベンダーに頼んだのも、中途のメンバーです。
その日のうちに、後任の事務の担当者が自分のアカウントで同じフォルダを開けるようにしました。電話でそれを伝えると、事務の担当者はしばらく黙ってから、「怒られると思っていました」とだけ言いました。付箋のメモは、担当者が自分でシュレッダーにかけたそうです。
誰も責めない。責めれば、次に同じことが起きたとき、営業所は黙っている。去年の冬、不審なメールのリンクを押してしまった社員が自分から窓口に連絡してきたのも、言っても責められないと分かっていたからでした。
人事の担当者にこの話をすると、少し驚いた顔をされました。「退職の手続きが終われば、アカウントも一緒に止まるんだと思っていました。システムがつながっているのかと」。人事は人事の手続きを、毎月きちんと終えていた。その先が、どこにもつながっていなかったのです。担当者はその場で、退職の手続きの一覧に1行足しました。「窓口にカードを出す」。
この件で分かったのは、止めるのが遅れたことだけではありません。後任に渡すものが、届いていなかった。権限が先に後任へ届いていれば、引き継ぎのメモにパスワードを書く理由は、そもそもなかったはずです。
中途のメンバーは、退職のときの手続きを12ページにまとめてきました。以前の職場で、手順のなかった場所から事故が起き、誰かが責められるのを見てきた人です。12ページは、窓口の手引きにそのまま入れました。営業所や人事の人が手を動かす手順は、6段に絞る。読まれる手順は、短いほうです。自分の12ページが手引きの棚に収まるのを見て、中途のメンバーは何も言わず、本の付箋を1枚はがしました。
6段の手順は、作った翌週に一度動きました。第二工場の事務の人が月末で辞めることになって人事から窓口にカードが届くと、後任のアカウントと権限は退職日の3日前にそろい、前任のアカウントは退職日の終わりに止まりました。引き継ぎのメモに書かれたのは、フォルダの場所だけ。
退職や異動が決まってから、前任のアカウントを止め終わるまでを、窓口の手順として並べます。営業所や人事の人が手を動かすのは、このうちの数段だけです。
先にやるものから順に押してください。
6段のうち、止める作業そのものは1段だけ。残りは、止める前に渡すことと、止めたあとで確かめること。
守りを厳しくするほど、抜け道を探す人が出ます。抜け道をふさぐ前に、抜け道の要らない状態を作る。後任のアカウントが先に届けば、メモにパスワードを書く人はいません。
目的:事業を続けるのに必要な情報を守る
止める前に、後任へ渡す。それがいちばん効く守り
1年目では 第11話 で出会ったしくみ。
更新は、598のアカウントと3年の契約で決まりました。持ち主のいない42は、その週のうちに止まっています。4体の子が怖がっていたものに、それぞれしくみを置きます。
怖がっていたこと何にいくら払っているのか分からないまま、値上げの分だけ来年の枠があふれること
怖がっていたこと理由を聞かれないまま、長い付き合いの客から、ある日解約の知らせだけが届くこと
怖がっていたこと前任のアカウントを使ってはいけないことも、自分の権限を頼む手順も、誰からも知らされていなかったこと
怖がっていたこと毎月誰かが手でふさいでいた穴が、その人が席を立った日から、空いたままになること
外の会社、お金、気がかり、守るべき情報。4つのしくみは、1通の値上げの知らせから、つながって出てきました。知らせを請求書の話だけで終わらせていたら、北関東営業所の付箋は、来年もまだ机に貼ってあったはずです。
番号と分類はITIL 4の並べ方です。ITIL 5の試験で押さえるのは「プラクティス=資源のまとまり」と2つのグループまで。
せきのこ ── 席のうしろの、小さな子たち
更新の条件は、9月のうちに決まりました。アカウントは598で、3年の契約。値上げは8%。やめるときの書き出しの手順と、半年ごとに実績を一緒に見る場が、契約に入りました。来年の費用は387万5千円で、今年とほとんど変わらない。管理本部長は、枠に入れると言いました。
ホワイトボードの箱は、名人が描き直しました。「人事」から出た矢印は、「窓口」を通って、新しい箱に入っています。「退職・異動のお願いカード(持ち主:ヘルプデスクの席)」。描き終えると、名人はマーカーのふたを閉めながら言いました。
「自分の頭の中にも、まだ紙になっていない箱が、いくつかあると思います」
「その箱、いつか見せてください」と新しいリーダーが言うと、名人は少し笑って、「カードにします」と答えました。
席に戻って、引き継ぎの資料の目次を開き、「管理プラクティス」の章に1行足しました。目次は、前のリーダーが5つの部品で組んだものです。そこに自分の字で行を足すのは、これがはじめてでした。
外の会社(サプライヤ管理):付き合いの濃さは、こちらの頼り方で決める。止まると全社が止まる相手とは、値上げの知らせより先に会う。更新の3か月前と、半年ごと。
お金(サービス財務管理):単価の前に、数を数える。払っている数は、守っている数でもある。
気がかり(リスク管理):地図に置いたら、持ち主と次に見る日を書く。置いただけのリスクは、置いたまま起きる。
守り(情報セキュリティ管理):止めるより先に、渡す。後任が困らなければ、メモにパスワードは書かれない。
目次に足した1行。「退職と異動の突き合わせ(毎月。在籍者の一覧と全件で。持ち主:ヘルプデスクの席)」。手の中にはあって、紙にはなっていなかった仕事。その手からも、6件はこぼれていた。
Q1. ベンダーとの契約に「やめるときは、アカウントの情報を決まった形で書き出してもらう」という1行を入れた。主に4つの側面のどれの話か。
C。外部の組織との関係と、それを決める契約や合意は、パートナーとサプライヤーの側面です。書き出す中身はアカウントの情報ですが、ここで決めたのは外の会社との約束のほうです。
Q2. 前のリーダーの手の中にしかなかった「人事の一覧を見てアカウントを止める」仕事を、窓口のカードと毎月の突き合わせにして、持ち主の席を決めた。ITILバリュー・システムの、どの部品を組み直したことになるか。
C。人・手順・道具・情報をまとめた、仕事のための資源のまとまりが管理プラクティスです。カード(手順と情報)と持ち主(人)をそろえて、人が替わっても席に残る形にしました。原則は判断の拠り所、ガバナンスは方向を決めて確かめる流れ、バリューチェーンは8つの活動からなる、価値を生む運営モデルです。