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ITIL Foundation(Version 5)解説ガイド

ITIL 5 を体系的に理解し、Foundation 試験に合格するための日本語の解説です。用語には英語の原語を添えています。

このガイドについて Nex Arc Learning の学習ガイド(全22章の構成と要点)と、手元の資料をもとに、学習用に書き下ろした解説です。どの資料の訳でもありません。具体例と確認問題は、このガイドのために作ったものです。試験で問われる英語の正式な定義は、PeopleCert の公式教材で最終確認してください。

0. 全体の地図The big picture of ITIL (Version 5)

ITIL 5 をひとことで言うと

ITIL 5 は、「デジタルのプロダクトとサービスを、一体のものとして管理し、利用者といっしょに価値をつくるための共通言語」です。

ITIL 4 までは「IT サービスをどう管理するか」が中心でした。ITIL 5 では、アプリやシステムといったプロダクトと、それを使えるようにするサービスを、同じ1つの解決策の表と裏として扱います。開発する人、運用する人、事業の人が、同じ言葉で話せるようにするのがねらいです。

22章は、5つの問いに答える構成になっている

① 何のためにやるのか? → 価値。価値は提供者と利用者がいっしょにつくる(領域1:第1〜5章)
② 何を見落としてはいけないのか? → 4つの側面と外部要因(領域2:第6〜7章)
③ プロダクトとサービスは、生まれてから廃止までに何をするのか? → 8つの活動のライフサイクル(領域3:第8〜9章)
④ 組織は、それをどんなしくみで回すのか? → ITIL バリュー・システムの5つの構成要素(領域4:第10〜15章)
⑤ 実際の仕事の流れをどう良くするのか? 新しい技術とどう付き合うのか? → バリューストリーム、AI、DevOps・PRINCE2(領域5〜7:第16〜22章)

いちばん大事なつながり

ITIL 5 の多くの概念は、同じ「8つの活動」を別の角度から見たものです。ここを押さえると、全体が一気につながります。

見方8つの活動をどう使うか章
ライフサイクル
Product and Service Lifecycle
1つのプロダクト・サービスの一生を、8つの活動で描く8・9
バリューチェーン
value chain
組織全体の運営モデルとして、8つの活動を持つ13
バリューストリーム
value stream
ある需要に応えるために、8つの活動をその場面用に並べた道筋16〜18

8つの活動は、発見(discover)・設計(design)・取得(acquire)・構築(build)・移行(transition)・運用(operate)・提供(deliver)・サポート(support)です。この順番は、最初に丸ごと覚えてしまいましょう。

このガイドで使う例:電子書籍サービス「ヨムナビ」 架空の会社が運営する電子書籍サービスです。スマホアプリ、本のデータを配信するしくみ、決済のしくみからできています。利用者は、いつでも本を買ってすぐ読めます。各章でこの例を使って、概念を具体的にします。

ITIL の歴史の中での位置

ITIL v3ITIL 4ITIL(Version 5)
中心のモデルサービスライフサイクルの5段階サービス・バリュー・システム(SVS)プロダクトとサービスの統合ライフサイクル+ITIL バリュー・システム
進め方順番どおり・直線的全体的・柔軟状況の複雑さに合わせる・AI 前提
主な関心プロセス価値の共創とプラクティスデジタル・プロダクトとサービス、体験、AI

ITIL 5 は、ITIL 4 を捨てた「作り直し」ではなく、ITIL 4 の発展形です。価値の共創、従うべき原則、4つの側面、継続的改善といった ITIL 4 の考え方は、ほぼそのまま引き継がれています。

領域1 主要な用語と定義Domain 1 — Key ITIL terms and definitions

この領域は、ITIL の「単語帳」にあたります。ここで覚える言葉は、あとのすべての章で前提として出てきます。試験でも出題数がいちばん多い領域です。

第1章 プロダクトとサービスの管理Product and Service Management

この章の位置づけITIL 5 が「何を管理するのか」を決める章です。プロダクト、サービス、価値の4つの特性を押さえます。

1. デジタル・プロダクトとサービスの管理とは

ITIL 5 では、管理の対象を「サービス」だけから「プロダクトとサービス」に広げました。これをデジタル・プロダクトとサービスの管理(digital product and service management)と呼びます。デジタルのプロダクトとサービスを通じて価値を生み出すための、組織の専門的な能力のまとまりのことです。

以前の ITIL でいう「サービスマネジメント」が発展したもの、と考えてかまいません。違いは、プロダクトとサービスを別々の部署で別々に管理するのではなく、1つの解決策の両面として一緒に管理する点です。

2. プロダクト・サービス・グッズ

用語意味見分けるポイント
プロダクト
product
組織の資源(人・技術・情報など)を組み合わせて、価値を届けられるようにしたもの「資源の組み合わせ」
サービス
service
利用者が望む成果を実現できるようにして、価値の共創を可能にするもの。利用者は特定のコストやリスクを自分で抱えなくてよい「コストとリスクを利用者が管理しなくてよい」
グッズ(物品)
good
価値をもつ、形のある物。所有権を利用者に移せる「所有権が移る」

プロダクトとサービスの関係は、こう考えるとわかりやすくなります。組織の資源を組み合わせてプロダクトをつくり、その一部を利用者に届ける形がサービスです。

デジタル・プロダクト(digital product)とデジタル・サービス(digital service)は、デジタル技術で実現・提供されるプロダクトとサービスです。「デジタル」は新しい種類を増やすのではなく、届け方(経路)を表しているだけです。定義の中身は変わりません。

例:ヨムナビ
  • プロダクト:スマホアプリ、本の配信基盤、決済のしくみ。会社が資源を組み合わせてつくったもの。
  • サービス:「夜中でも本を買ってすぐ読める」こと。利用者はサーバーを買ったり、障害に備えたりしなくてよい。
  • グッズ:ヨムナビが専用の読書端末を販売したら、それはグッズ(所有権が利用者に移る)。

3. サービスの4つの価値特性

サービスの良さは、1つの物差しでは測れません。ITIL 5 は次の4つの特性で考えます。

特性答える問い合言葉何で実現するか
有用性
utility
何をしてくれるか目的に適う
fit for purpose
利用者の仕事を助ける機能、または制約を取り除く機能
保証
warranty
約束どおりに動くか使用に適う
fit for use
可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性
ユーザー体験
user experience (UX)
使っていてどう感じるか(合言葉なし)使いやすさ、プロダクト・サービス・提供者との体験全体
持続可能性
sustainability
長く責任を果たせるか(合言葉なし)環境への責任、社会の進歩、経済の成長

有用性と保証は ITIL 4 からある考え方です。ITIL 5 では、ここにユーザー体験と持続可能性が加わって4つになりました。

例:ヨムナビの4つの特性
  • 有用性:本を検索・購入・閲覧できる。
  • 保証:夜間のセール中でもアクセスが集中して落ちない。購入履歴が漏れない。
  • ユーザー体験:ページめくりが気持ちよい。迷わず買える。
  • 持続可能性:データセンターの電力消費を抑えている。

4. 一生を通して見る:ライフサイクルと継続的改善

デジタル・プロダクトとサービスの管理には、もう2つ大事な考え方があります。ITIL プロダクトとサービスのライフサイクル(生まれてから廃止まで一生を見る)と、継続的改善(continual improvement:変わる要求に合わせて良くし続ける)です。どちらもあとの章で詳しく学びます。

5. ITIL がだれの役に立つか

立場ITIL から得られるもの
企業
enterprises
共通の枠組みと言葉。品質の向上、IT と事業目標のすり合わせ、コストとリスクの管理
マネージドサービスプロバイダー
managed service providers
多くの顧客に、一定の品質のサービスを届けるための実践の型と共通の言葉
デジタル・プロダクトのベンダー
digital product vendors
プロダクト開発とサービス管理をつなぎ、顧客の体験を良くする方法
専門職の個人
professionals
世界で通用する資格、共通の言葉、キャリアに役立つ実践の知識
試験のツボ
  • purpose=有用性、use=保証。この2つの入れ替えは定番のひっかけ。
  • 可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性が出たら「保証」。
  • UX と持続可能性には「fit for ~」の合言葉はない。
  • グッズかどうかは「所有権が移るか」で判断する。
確認問題1:ヨムナビが「障害が起きても30分以内に復旧する」と約束した。これは4つの特性のどれに関わる?
保証(warranty)。約束どおりに動くこと(可用性・継続性)に関わるため。
確認問題2:「デジタル・サービスは、プロダクトやサービスとは別の新しい種類である」。正しい?
誤り。「デジタル」は届け方(経路)を表すだけで、プロダクト・サービスの定義は変わらない。

第2章 体験・戦略・変革Experience, Strategy and Transformation

この章の位置づけITIL 5 の上級コースである Experience・Strategy・Transformation の3つから、Foundation で知っておく言葉をまとめた章です。3つの言葉のグループを混ぜないことが大切です。

3つのグループは、それぞれ別の問いに答えます。

体験
ITIL Experience
戦略
ITIL Strategy
変革
ITIL Transformation
中心の問い人はやりとりをどう感じているか組織はどこへ、なぜ向かうのかそこへ行くために、組織はどう変わるのか
主な用語体験、デジタル体験、信頼、UX、CX、XLA、人間中心設計戦略、事業戦略、デジタル戦略、ミッション、ビジョン、パーパス、VUCA、リーダーシップ変更、変革、BAU

1. 体験(Experience)のグループ

体験(experience)とは、人が組織とのやりとりについてどう考え、どう感じるかです。そのうち、デジタルの経路を通したものがデジタル体験(digital experience)です。

体験には、範囲の違う2つがあります。

体験を良くするための考え方として、次の3つがあります。

例:ヨムナビ アプリの読みやすさは UX。広告メール、問い合わせ窓口、請求のわかりやすさまで含めた全体の印象は CX。「稼働率99.9%」は SLA の目標で、「利用者の9割が『迷わず買えた』と答える」は XLA の目標です。

2. 戦略(Strategy)のグループ

戦略(strategy)は方向を決めるものです。範囲によって呼び名が変わります。

組織の方向を示す3つの言葉は、時間の向きで区別します。

言葉答える問い時間
ミッション
mission
いま何をしていて、なぜ存在するのか現在
ビジョン
vision
将来どうなりたいのか未来
パーパス
purpose
利用者や関係者のために何をするのか、なぜか(誰のためか)

VUCAは、変動(volatility)・不確実(uncertainty)・複雑(complexity)・あいまい(ambiguity)な環境のことです。こういう環境で人を目標へ導くのがリーダーシップ(leadership)です。

3. 変革(Transformation)のグループ

言葉意味イメージ
変更
change
プロダクト・サービス・仕事のやり方などを変えること少しずつ積み重ねる
変革
transformation
組織の動き方そのものを根本から変えること深く、根本から
通常業務
business as usual (BAU)
確立した業務をいつもどおり回している状態安定した日常
例:ヨムナビ アプリに「しおり共有」機能を足すのは変更。紙の本の会社が、組織も収益モデルも電子書籍中心に作り替えるのは変革。毎日の配信と問い合わせ対応は BAU です。
試験のツボ
  • UX=1つのプロダクト、CX=関係全体。どちらも出題が非常に多い。
  • XLA=体験が目標、SLA=サービスレベルが目標。
  • ミッション=今、ビジョン=未来、パーパス=誰のために・なぜ。
  • 変更=少しずつ、変革=根本から、BAU=日常。変革と BAU は出題が多い。
確認問題1:「当社は10年後、アジアで最も信頼される読書の場になる」。ミッション・ビジョン・パーパスのどれ?
ビジョン。将来どうなりたいか(未来)を述べているため。
確認問題2:問い合わせ窓口、請求、アプリ、メールなど、顧客が組織と関わるすべての体験を何と呼ぶ?
カスタマー体験(CX)。1つのプロダクトの体験なら UX。

第3章 サービス・オファリングService Offerings

この章の位置づけ提供者が利用者に「何を差し出すのか」を整理する章です。3つの構成要素を、所有権とだれが作業するかで見分けます。

サービス・オファリング(service offering)は、ある利用者グループに向けて、提供するサービスを正式に説明したものです。メニュー表のようなものと考えるとよいでしょう。中身は次の3つの組み合わせでできていて、組み合わせ方は利用者グループごとに変えられます。

グッズの移転
transfer of goods
リソースへのアクセス
access to resources
サービス・アクション
service actions
中身形ある物の所有権を利用者に渡す提供者の資源を、決めた条件で利用者が使える提供者が利用者のために作業をする
所有権利用者に移る提供者に残る(渡す物はない)
だれが作業するか渡したあとは利用者の責任認められた範囲で利用者が自分で使う提供者が作業する
例ノートPCやスマホの支給クラウドストレージ、ネットワーク、アプリサービスデスクが依頼を解決する
デジタル・サービスでは少ない主なやりとりの形自動化やセルフサービスで減らすことが多い

サービス・インタラクション(service interactions)は、提供者と利用者が価値を共創するために関わり合うやり方全般を指します。デジタル・サービスでは、利用者が提供者の資源に自分でアクセスする形が中心になります。

例:ヨムナビの「法人向けプラン」と「個人向けプラン」
  • 個人向け:本の配信基盤へのアクセス(リソースへのアクセス)が中心。困ったらチャットで回答(サービス・アクション)。
  • 法人向け:社員用の読書端末を貸与ではなく販売(グッズの移転)、社内研修用の本棚へのアクセス、導入時の設定代行(サービス・アクション)。
同じ会社でも、利用者グループによって3つの組み合わせ方が変わります。
試験のツボ
  • 「デジタル・サービスの主なやりとりの形は?」→ リソースへのアクセス。
  • 所有権が移る=グッズ、移らない=アクセス、物がなく提供者が作業する=サービス・アクション。
  • デジタルの提供者は、自動化・セルフサービスでサービス・アクションを減らす傾向がある。
確認問題1:社員がパスワードを自分でリセットできる画面を用意した。サービス・アクションは増える?減る?
減る。担当者の作業(サービス・アクション)を、セルフサービスの仕組みに置き換えているため。
確認問題2:オンライン会議ツールを月額で使えるようにした。3つの構成要素のどれ?
リソースへのアクセス。ツールの所有権は提供者に残り、利用者は決めた条件で使う。

第4章 価値の共創Value Co-creation

この章の位置づけITIL のいちばん根っこにある考え方です。「価値は提供者が一方的に渡すものではない」ことを理解します。

1. 価値とはなにか、だれが決めるのか

価値(value)は、あるものから感じられる便益・有用さ・大切さです。キーワードは「感じられる(perceived)」です。価値があるかどうかを判断するのは、提供者ではなく受け取る側です。

そして ITIL では、価値は共創される(co-created)と考えます。提供者がサービスを用意し、利用者がそれを使いこなす。この協力があって初めて価値が生まれます。どんなに優れたアプリでも、利用者が使い方を知らなければ価値は生まれません。

2. 成果を、コストとリスクと比べる

価値は、得られる良いこと(成果)と、そのために負うもの(コストとリスク)をまとめて比べて判断します。良いことが上回れば、価値があると感じられます。

用語意味価値の共創での役割ひっかけ
コスト
cost
活動や資源にかかるお金成果と比べる。サービスは利用者のコストを減らす面と新たに課す面の両方がある利用料だけをコストと考え、減らしたコストを忘れる
リスク
risk
損害を与えたり、目標達成を難しくしたりするかもしれない出来事成果と比べる。サービスはリスクを減らす面と新たに生む面の両方がある。なくすのではなく最適化するサービスはリスクを減らすだけ、と考える
例:ヨムナビを使う読者
  • 減ったコスト:本棚を買わなくてよい。書店へ行く交通費がかからない。
  • 新しいコスト:月額料金。
  • 減ったリスク:本をなくしたり、汚したりしない。
  • 新しいリスク:サービスが終了したら読めなくなる(提供者への依存)。

3. アウトプットとアウトカム

ここは試験で特に大事な区別です。

アウトプットは「サービスが生み出すもの」、アウトカムは「それによって可能になる結果」です。アウトプットを渡しても、アウトカムが達成されたとは限りません。レポートを送っても、だれも読まなければ意思決定は良くなりません。

4. 価値を左右するものと、フィードバック

利用者が感じる価値には、第1章の4つの特性(有用性・保証・ユーザー体験・持続可能性)がそれぞれ寄与します。そしてフィードバック(feedback)が、何をどう良くすべきかを示し、価値の共創を前に進めます。ITIL 5 では、フィードバックは最後のアンケートだけでなく、日々集まるデータとして扱う考え方が強まっています。

試験のツボ
  • 価値を判断するのは受け取る側。提供者のコストで価値を測らない。
  • アウトプット(成果物)とアウトカム(望む結果)の区別は頻出。
  • サービスは、コストもリスクも「減らす」「課す」の両方がある。
  • リスクは「なくす」のではなく「最適化する」。
確認問題1:「毎週の売上ダッシュボード」と「在庫切れが減った」。アウトプットはどっち?
売上ダッシュボードがアウトプット。在庫切れが減ったことは、それによって可能になったアウトカム。
確認問題2:クラウドに移行して自社サーバーの保守が不要になったが、通信障害で業務が止まる心配が生まれた。これを価値の共創ではどう考える?
サービスがリスクを減らす面(自社サーバーの故障)と、新たに課す面(通信障害・提供者への依存)の両方がある例。両方をアウトカムと比べて判断する。

第5章 サービス関係Service Relationships

この章の位置づけ価値を共創する「当事者」と、その関係の深さ、関係の測り方を整理する章です。

1. 関係の当事者

これらをまとめる大きな枠がサービス関係(service relationship)です。提供者と利用者が価値を共創するための協力関係のことです。

2. 利用者側の3つの役割

役割すること主な関心
スポンサー
sponsor
サービス利用の予算を承認する投資対効果
顧客
customer
サービスへの要求を決め、結果に責任を持つ事業の課題が解決するか
ユーザー
user
サービスを実際に使う使いやすさ

1人が複数の役割を兼ねることもあります。個人で電子書籍を買う人は、スポンサー(お金を出す)・顧客(何が欲しいか決める)・ユーザー(読む)を1人で兼ねています。

例:ヨムナビ法人プランを導入した会社 予算を承認した役員がスポンサー、「研修用に〇〇の分野の本が必要」と要求を決めた人事部長が顧客、実際に本を読む社員がユーザーです。

3. 関係の深さ:3つのタイプ

基本的
basic
協調的
cooperative
協働的
collaborative
性質取引中心。標準サービスを届ける共通の目標に向けて連携する密に統合されたパートナー
統合の深さいちばん浅い中くらいいちばん深い
情報の共有届けるのに必要な分だけ共通の目標のために共有常にオープンに共有
リスクと報酬それぞれが別々に持つほぼ別々、努力は連携分かち合う
典型汎用サービスの購入共通の目標のすり合わせ成果を共有する戦略的提携

4. サービス・ジャーニー

サービス・ジャーニー(service journey)は、利用者がすべての接点を通して経験する、最初から最後までの道のりです。サービスを知る、選ぶ、契約する、使う、困って相談する、やめる、までの全体を指します。

5. 関係を測る:品質・レベル・SLA

用語意味ひとことで
サービス品質
service quality
ニーズを満たすことに関わる、サービスの特性の全体特性の全体
サービスレベル
service level
合意した目標に対して、期待される・達成された実績を測るもの測った値
サービスレベル合意
service level agreement (SLA)
必要なサービスと、期待するサービスレベルを文書で取り決めたもの文書の合意
試験のツボ
  • お金を出す=スポンサー、要求を決める=顧客、使う=ユーザー。役割の説明から名前を当てる問題が多い。
  • 関係の3タイプは「浅い順・深い順」に並べさせる問題が出る。基本的→協調的→協働的。
  • 品質(特性の全体)・レベル(測った値)・SLA(文書)を区別する。
確認問題1:「必要な情報だけをやりとりし、リスクは各自が持つ」関係は?
基本的(basic)な関係。
確認問題2:「平均応答時間 1.2 秒(目標 2 秒以内)」は、サービス品質・サービスレベル・SLA のどれ?
サービスレベル。合意した目標に対する実績を測った値。

領域2 プロダクトとサービス管理の4つの側面Domain 2 — The ITIL four dimensions of product and service management

領域1で「何を目指すか(価値)」を学びました。領域2は、それを実現するときに「何を見落としてはいけないか」を学びます。

第6章 4つの側面(入門)Introduction to the Four Dimensions

この章の位置づけどのプロダクト・サービスを考えるときにも当てはめる、4つの見方を学びます。

プロダクトとサービス管理の4つの側面(four dimensions of product and service management)は、プロダクトやサービスを4つの角度から見るための枠組みです。どれか1つが優れていても、ほかが弱ければ全体はうまくいきません。4つは全体的に(holistically)まとめて考えます。

4つは、「だれが」の2つと、「何を・どうやって」の2つに分けると覚えやすくなります。

側面扱うこと例混同しやすいもの
だれが
組織と人材
organizations and people
提供者自身の人の面。役割と責任、体制、文化、能力、スキルチームの体制、リーダーシップ、研修、チームの文化外部の会社やその契約(→パートナーとサプライヤー)
パートナーとサプライヤー
partners and suppliers
サービスに関わる外部の組織との関係と、それを決める契約・合意供給者との契約、SLA、SIAM(service integration and management:複数の供給者をまとめて管理するやり方)自社の社員(→組織と人材)
何を・どうやって
情報と技術
information and technology
必要な情報と知識、サービスの中や管理に使う技術アプリ、データベース、通信、ワークフロー、AI、クラウド、データそのもの仕事がどう流れるか(→バリューストリームとプロセス)
バリューストリームとプロセス
value streams and processes
組織自身の活動を、価値を生むようにどう連携させるかバリューストリーム(一連の手順)、プロセス(インプットをアウトプットに変える活動)どの外部業者が関わるか(→パートナーとサプライヤー)

補足です。

例:ヨムナビを4つの側面で見る
  • 組織と人材:アプリ開発チームと配信運用チームの体制。読書好きの文化。
  • パートナーとサプライヤー:出版社との契約、クラウド事業者との契約、決済代行会社。
  • 情報と技術:アプリ、本のデータ、購入履歴のデータベース、おすすめ表示の AI。
  • バリューストリームとプロセス:新刊が届いてから配信されるまでの流れ。返金依頼の処理手順。
4つの側面と ITIL バリュー・システムは別物 4つの側面は、すべての活動にかぶせる「見方」です。一方、ITIL バリュー・システム(第10章)は、組織が価値を生み出す「しくみ」そのものです。バリューチェーンはバリュー・システムの構成要素であって、4つの側面の1つではありません。
試験のツボ
  • 4つの側面はすべてのプロダクト・サービスに当てはまる。どれか1つだけでは足りない。
  • 自社の人=組織と人材、他社=パートナーとサプライヤー。
  • アプリ・データベース・分析ツールは情報と技術。
  • Version 5 での呼び名は「プロダクトとサービス管理の4つの側面」。
確認問題1:「クラウド事業者との契約を見直し、障害時の連絡ルールを決めた」。どの側面?
パートナーとサプライヤー。外部の組織との関係と契約に関わるため。
確認問題2:「新人の研修プログラムを整えた」。どの側面?
組織と人材。自社の人の能力とスキルに関わるため。

第7章 内部要因と外部要因Internal and External Factors

この章の位置づけ4つの側面(自分で管理できるもの)と、その外側にある環境(自分では動かせないもの)を区別する章です。

1. 管理できるもの・できないもの

外部要因は、4つの側面すべてに影響します。たとえば新しい個人情報保護の法律ができると、社員の教育(組織と人材)、委託先との契約(パートナーとサプライヤー)、データの持ち方(情報と技術)、手続きの流れ(バリューストリームとプロセス)のすべてを見直すことになります。

2. PESTLE:外部要因の6つの分類

分類扱うこと例混同しやすいもの
政治的
Political
政府と政策の影響政府の方針、政情の安定、税制、貿易の規制経済(お金や市場は別の分類)
経済的
Economic
市場とお金の状況景気、金利、インフレ、為替政治(金利は経済)
社会的
Social
社会と人口の傾向人口構成、価値観、生活様式自社の社員(それは内部の組織と人材)
技術的
Technological
技術変化の速さと性質イノベーション、自動化、技術の進歩の速さ自社が使っている道具(それは内部の情報と技術)
法的
Legal
法律と順守の義務労働法、データ保護法、安全衛生の法律技術(プライバシーの法律は法的)
環境的
Environmental
環境と持続可能性の影響気候、環境規制、排出削減の目標法的(データ保護法は法的、排出目標は環境的)

3. 分類で迷わないコツ

「その要因は、何によって生まれたのか」を考えます。お金の動きなら経済、法律の文言なら法的、政府の姿勢なら政治的、地球環境なら環境的です。「社会」と「技術」は、自社の中の話か、世の中全体の流れかで、内部と外部を分けます。

例:ヨムナビにふりかかる外部要因
  • 政治的:電子書籍への課税ルールが変わる。
  • 経済的:円安でクラウドの利用料が上がる。
  • 社会的:若い世代で縦スクロールのマンガが好まれる。
  • 技術的:生成 AI による要約機能が当たり前になる。
  • 法的:アクセシビリティ対応が法律で義務になる。
  • 環境的:データセンターの省エネ目標が求められる。
試験のツボ
  • 4つの側面=内部要因。外部要因は PESTLE で分析する。
  • 外部要因は4つの側面すべてに影響する。
  • 金利・インフレ=経済。政情の安定=政治。データ保護法=法的。
  • PESTLE の6文字を英語で言えるようにしておく。
確認問題1:「為替の変動で海外のサーバー費用が上がった」。PESTLE のどれ?
経済的(Economic)。
確認問題2:「自社のエンジニアの平均年齢が上がっている」。PESTLE の社会的要因?
いいえ。自社の社員の話なので外部要因ではなく、内部要因(組織と人材)。

領域3 プロダクトとサービスのライフサイクルDomain 3 — The ITIL Product and Service Lifecycle

ITIL 5 でいちばん大きく変わった部分です。ITIL v3 の「5段階」に代わる、8つの活動のモデルを学びます。ここで覚える8つの活動は、第13章(バリューチェーン)と第16〜18章(バリューストリーム)でもそのまま使います。

第8章 ライフサイクル(入門)Introduction to the Product and Service Lifecycle

この章の位置づけプロダクトとサービスの「一生」をどう捉えるかを学びます。ポイントは「順番どおりではない」ことです。

1. 1つの、端から端までのライフサイクル

ITIL プロダクトとサービスのライフサイクル(ITIL Product and Service Lifecycle)は、すべてのプロダクトとサービスに、一連の活動がどう当てはまるかを示す、端から端までのモデルです。機会を見つけたときから、廃止するときまでの一生全体を扱います。

ITIL 5 では、デジタル・プロダクトとサービスを「同じ技術的な解決策の2つの見方」として扱います。だから、両者は同じ1つのライフサイクルを共有し、いっしょに管理されます。このように全体を1つのつながりとして管理する考え方を、エコシステム・アプローチ(ecosystem approach)と呼びます。

2. 8つの活動

発見 discover → 設計 design → 取得 acquire → 構築 build → 移行 transition → 運用 operate → 提供 deliver → サポート support

この8つは、ITIL v3 の5段階(サービスストラテジ、サービスデザイン、サービストランジション、サービスオペレーション、継続的サービス改善)を、より全体的な形に組み替えたものです。そして第13章のバリューチェーンの8活動とまったく同じです。

3. 順番どおりではない

矢印で並べましたが、これは覚えるための順番です。実際には:

これは、昔ながらの「計画→構築→運用」(plan-build-run)を順番に受け渡していくやり方に代わるものです。

例:ヨムナビの今日 バージョン3.2 は本番で動いていて「運用」「提供」「サポート」の最中です。同時に、バージョン3.3 は「構築」でテスト中、バージョン4.0 は「発見」で利用者インタビュー中です。1つのアプリが、同時に複数の活動の中にいます。

4. なぜこのモデルが役立つのか

どのプロダクトやサービスにも同じモデルを当てはめるので、品質・リスク・法令順守を、一生を通して一貫したやり方で管理できます。

5. 混同しやすい4つの概念

概念何か当てはまる範囲
ライフサイクル8つの活動が一生を通してどう当てはまるかの、全体のモデルすべてのプロダクト・サービス(機会から廃止まで)
バリューチェーン8つの活動を持つ、組織の運営モデル組織の運営全体
バリューストリームある場面で価値をつくって届けるための、一連の手順特定のプロダクト・サービス・場面
継続的改善モデル改善の取り組みを進めるための、くり返し使える手順改善の取り組み
試験のツボ
  • 8つの活動の名前と数は必ず出る。英語で言えるように。
  • 「活動は順番に行う」「一直線」→ 誤り。くり返し使えて、同時に進む。
  • 8つの活動はバリューチェーンの8活動と同じ。
  • 8つの活動は ITIL v3 の5段階に代わるもの。
確認問題1:「ライフサイクルの活動は、発見から順番に1つずつ完了させる必要がある」。正しい?
誤り。順番どおりでも一直線でもなく、くり返し・同時に使える。
確認問題2:ライフサイクルと同じ8つの活動を持つ、組織の運営モデルは?
バリューチェーン(value chain)。

第9章 8つの活動の目的と範囲Purpose and Scope of the Lifecycle Activities

この章の位置づけ8つの活動それぞれの「目的」を区別できるようにします。試験では、説明文から活動の名前を当てる問題が出ます。

8つの活動は、3つの役割に分けると覚えやすくなります。

グループ活動目的混同しやすい活動
つくり出す発見
discover
環境・需要・機会を理解して、何が必要か、何を良くできるかを見極める設計(解決策を形にするのは設計)
設計
design
見極めた必要を、4つの価値特性(有用性・保証・UX・持続可能性)を満たす仕様にする構築(部品を作って試すのは構築)
取得
acquire
必要な部品・物品・資源を、社内や供給者から手に入れて割り当てる構築(組み立てて試すのは構築)
構築
build
部品を作り、組み合わせ、設定し、仕様どおりかテストする移行(本番に出すのは移行)
本番に移す移行
transition
新規・変更したものを安全に本番へ移し、使える状態か確かめる提供(継続的に届ける)、運用(動かし続ける)
本番で価値を保つ運用
operate
本番のサービスと部品を、合意した水準で動かし続ける提供(利用者に価値を届けるのは提供)
提供
deliver
動いているサービスとその価値を、利用者が使える状態に保ち続ける移行(1回きりの展開)
サポート
support
問題・インシデント・問い合わせ・依頼に対応し、通常の状態に戻す移行(展開)、運用(動かし続ける)

まぎらわしいペアを整理する

例:ヨムナビに「音声読み上げ」機能を加える
  • 発見:目の疲れを訴える利用者が多いことがわかる。
  • 設計:読み上げの仕様、速度、聞きやすさ(UX)、省電力(持続可能性)を決める。
  • 取得:音声合成エンジンのライセンスを外部から購入する。
  • 構築:アプリに組み込み、テストする。
  • 移行:段階的に本番に出し、問題がないか確かめる。
  • 運用:音声サーバーを監視し、負荷を調整する。
  • 提供:利用者が毎日その機能を使える状態を保つ。
  • サポート:「読み上げが止まる」という問い合わせに対応して直す。
資料による違い 手元の Guidebook(01・02)は、「発見〜構築はプロダクト寄り、提供とサポートはサービス寄り、移行と運用はその橋渡し」と説明しています。このガイドの3グループ(運用を「本番で価値を保つ」に入れる)とは分け方が違います。試験では、「各活動の目的」を言い当てられることが大切です。グループ分けそのものより、目的の違いを押さえてください。
試験のツボ
  • 「本番へ安全に移す」→ 移行。「動かし続ける」→ 運用。「利用者に届け続ける」→ 提供。「通常に戻す」→ サポート。
  • Version 5 は以前の運用段階を「運用」と「提供」に分けた。
  • サポートは何も作らず、何も展開しない。
確認問題1:「新しい決済機能を本番環境に展開し、問題なく使えることを確認した」。どの活動?
移行(transition)。
確認問題2:「市場の動向と利用者の声から、次に何を作るべきかを見極める」。どの活動?
発見(discover)。

領域4 ITIL バリュー・システムDomain 4 — The ITIL Value System

領域3では、1つのプロダクト・サービスの一生を見ました。領域4では、組織全体が価値を生み出し続けるための「しくみ」を見ます。章の数がいちばん多い領域です。

第10章 バリュー・システムの構成要素Components of the ITIL Value System

この章の位置づけ領域4全体の地図です。第11〜15章は、ここで出てくる5つの構成要素を1つずつ詳しく見ていきます。

ITIL バリュー・システム(ITIL Value System, ITIL VS)は、機会と需要(opportunity and demand)を受け取り、価値に変えるための、組織全体のしくみです。5つの構成要素が、互いに連携しながら働きます。

入ってくるもの:機会と需要 → ITIL バリュー・システム(5つの構成要素) → 出てくるもの:価値
構成要素組織の中での役割問題文に出る手がかり章
従うべき原則
guiding principles
どんな状況でも判断と行動を導く、普遍的な推奨「すべての状況に当てはまる推奨」11
ガバナンス
governance
統治機関が組織を方向づけ、統制する「方向づけと統制」「評価・指示・モニタリング」12
バリューチェーン
value chain
価値をつくって届けるための、つながった活動の運営モデル「つながった活動の集まり」「運営モデル」13
管理プラクティス
management practices
仕事を行うための、組織の資源のまとまり「仕事を行うための資源のまとまり」14
継続的改善
continual improvement
要求が変わっても、プロダクト・サービス・プラクティスを有効に保ち続ける「関連性を保つための、くり返しの活動」15

なぜ「システム」なのか

5つは別々の部品ではなく、互いに支え合います。原則が判断の方向を示し、ガバナンスが方向づけと統制を行い、バリューチェーンが実際に価値を生み、プラクティスがそのための資源を与え、継続的改善が全体を良くし続けます。どれか1つだけを動かしても、価値は安定して生まれません。バリュー・システムは、縦割り(サイロ)にならないよう柔軟に設計されていて、組織全体に当てはまります。

例:ヨムナビ 「利用者の読書体験を最優先する」(原則:価値に着目する)という考えのもと、経営会議が「来年は音声機能に投資する」と決め、その進み具合を確かめる(ガバナンス)。開発・運用チームが8つの活動を回し(バリューチェーン)、インシデント管理やリリース管理のやり方と道具を使う(管理プラクティス)。四半期ごとに振り返って改善する(継続的改善)。
名前に注意 ITIL 4 では「サービス・バリュー・システム(Service Value System, SVS)」と呼んでいました。Version 5 の呼び名は「ITIL バリュー・システム(ITIL Value System)」です。手元の 01 の Guidebook は古い呼び名(SVS)を使っているので注意してください。
試験のツボ
  • 構成要素は5つ。名前を英語で言えるように。
  • 入力は「機会と需要」、出力は「価値」。
  • バリューチェーンは構成要素の1つで、バリュー・システム全体ではない。
  • 4つの側面はバリュー・システムの構成要素ではない(第6章)。
確認問題1:ITIL バリュー・システムの5つの構成要素をすべて挙げよ。
従うべき原則、ガバナンス、バリューチェーン、管理プラクティス、継続的改善。
確認問題2:「バリュー・システムへの入力は何か?」
機会と需要(opportunity and demand)。

第11章 従うべき原則The ITIL Guiding Principles

この章の位置づけどんな場面でも判断の拠り所になる7つの原則です。試験では「この場面に当てはまる原則はどれか」という形でよく出ます。

従うべき原則(guiding principle)は、どんな状況、どんな取り組みにも当てはまる推奨です。ルールや手順ではなく、迷ったときの方位磁針のようなものです。7つあり、1つずつではなく組み合わせて使います。原則どうしは互いに支え合います。

7つの原則

1. 価値に着目する(Focus on value)
組織がすることはすべて、直接か間接的に、関係者の価値につながっているべきです。価値は、提供側の都合ではなく、利用者の視点で定義します。
誤解:提供にかかるコストの大きさで価値を判断する。

2. 現状からはじめる(Start where you are)
ゼロから作り直す前に、今あるものを評価し、使えるものは再利用します。現状は、報告書などの又聞きではなく、現場を直接見て測ります(Guidebook では、仕事が行われる現場を見に行く「ゲンバ(Gemba)」という言葉で説明しています)。
誤解:「何も変えない」こと、または「全部捨てて作り直す」こと。

3. フィードバックをもとに反復して進化する(Progress iteratively with feedback)
大きな仕事を、小さく扱いやすい単位に分けて進めます。各単位の前・途中・後でフィードバックを求め、方向を修正します。
誤解:最後に一度にまとめて出し、そこで初めて意見を聞く。

4. 協働し、可視性を高める(Collaborate and promote visibility)
適切な人を巻き込み、部署の壁を越えて協力します。仕事の進み具合や影響を見えるようにします(例:カンバンボード)。
誤解:関わる人は多いほどよい。(大事なのは「適切な人」)

5. 全体的に考えて取り組む(Think and work holistically)
サービス、プラクティス、供給者などを、1つのシステムとして扱います。単独で成り立つ部分はありません。
誤解:一部だけを最適化して、全体の価値を損なう。

6. シンプルにし、実践的にする(Keep it simple and practical)
成果を出すのに必要な最小の手順にします。価値を生まない手順・作業・指標は取り除きます。
誤解:「シンプル」を「簡単」と同じだと思う。(シンプルにするのは、むしろ難しいことが多い)

7. 最適化し、自動化する(Optimize and automate)
人と技術をいちばんよく活かします。まず最適化し、そのあと価値がある所を自動化します。人の判断が本当に必要な所に、人の力を使います。
誤解:ムダの多い手順を、そのまま自動化する。(ムダが速く大きくなるだけ)

例:ヨムナビの返金手続きを見直す
  • 利用者にとっての価値(すぐ返金される安心)から考える → 価値に着目する。
  • 今の手順を、担当者の横で実際に見て測る → 現状からはじめる。
  • 一度に全部変えず、まず小さな改善を出して反応を見る → 反復して進化する。
  • 経理と問い合わせ窓口を巻き込み、進み具合をボードで共有する → 協働し、可視性を高める。
  • 決済代行会社のしくみも含めて考える → 全体的に考える。
  • 3段階の承認のうち、意味のない1つを廃止する → シンプルにする。
  • 手順を整えたあとで、少額の返金を自動化する → 最適化してから自動化する。
試験のツボ
  • 原則は7つ。英語名で覚えると確実(日本語名は資料によって少しずつ違う)。
  • 最適化が先、自動化はあと。
  • 原則は組み合わせて使う。
  • 「現状からはじめる」は、現状を直接観察して測ることを含む。
確認問題1:「改善の前に、今のツールで使い続けられるものがないか洗い出した」。どの原則?
現状からはじめる(Start where you are)。
確認問題2:「手作業の承認手続きをそのままロボットで自動化したら、間違いも速く大量に起きた」。どの原則に反している?
最適化し、自動化する(Optimize and automate)。最適化してから自動化すべきだった。

第12章 ガバナンスGovernance

この章の位置づけ組織を「方向づけ、統制する」層の話です。日々の管理(マネジメント)との違いがポイントです。

ガバナンス(governance)は、組織を方向づけ、統制する手段です。責任を負うのは統治機関(governing body)、たとえば取締役会です。ガバナンスは日々の管理より上の層で働き、バリュー・システム全体を方向づけ、支えます。

ガバナンスとマネジメントの違い

ガバナンスは「何を目指し、どんなルールで動くか」を決めて確かめます。マネジメントは、その方向にそって実際に仕事を計画し、実行します。手を動かす仕事はマネジメントの役割です。

3つの活動:評価・指示・モニタリング

活動すること問題文の手がかりよくある誤解
評価
evaluate
組織、戦略、ポートフォリオ、関係者との関係の状況を見極める「状況を評価する」「ニーズと状況を見直す」順守の確認だと思う(それはモニタリング)
指示
direct
戦略を決め、責任を割り当て、方針と方向を定める「方針を定める」「方向を決める」実際の作業と混同する(それはマネジメント)
モニタリング
monitor
実績と結果が、定めた方向と方針に合っているか確かめる「順守を確かめる」「遵守状況を検証する」方針を決めることだと思う(それは指示)

評価して、指示して、モニタリングし、その結果をまた評価に戻す、という流れで回ります(頭文字をとって EDM と呼ぶこともあります)。

例:ヨムナビの取締役会
  • 評価:「海外の利用者が伸びている。法規制はどうか」と状況を見極める。
  • 指示:「来期は東南アジアに進出する。個人データは各国の法律に従って扱う」と方針を決め、担当役員を決める。
  • モニタリング:四半期ごとに、方針どおりに進み、法律が守られているかを報告させて確かめる。
試験のツボ
  • 方針を「決める」=指示、守られているか「確かめる」=モニタリング。この2つの入れ替えが定番のひっかけ。
  • ガバナンスの責任は統治機関にある。
  • ガバナンスはマネジメントより上の層。
確認問題1:「取締役会が、情報セキュリティの方針が各部署で守られているか確認した」。どの活動?
モニタリング(monitor)。
確認問題2:「取締役会が、AI の利用に関する社内ルールを定めた」。どの活動?
指示(direct)。

第13章 バリューチェーンValue Chain

この章の位置づけバリュー・システムの中心で、実際に価値を生み出す部分です。8つの活動の「成功の測り方」と、運用でよく使う用語を学びます。

1. バリューチェーンとは

バリューチェーン(value chain)は、価値をつくって届けるための、互いにつながった活動からなる運営モデル(operating model)です。運営モデルとは、組織がどう価値を共創し、どう自分を動かしているかを表したものです。

Version 5 のバリューチェーンは、ライフサイクルと同じ8つの活動を持ちます。活動は順番どおりではなく、場面ごとに組み合わせて使います(その組み合わせがバリューストリーム)。活動とプラクティスは、組織のパーパス(関係者のために何をするのか、なぜか)と運営モデルを支えます。

資料による違い 02 の Guidebook には、バリューチェーンの活動として「計画(Plan)、改善(Improve)、エンゲージ(Engage)」などが挙げられています。これは ITIL 4 のバリューチェーン(6活動)の名前です。Version 5 のバリューチェーンは8活動(発見〜サポート)です。

2. 8つの活動と、成功の測り方

各活動には、その目的から導かれた主要な成功指標があります。

活動すること成功の測り方
発見需要・機会・利用者ニーズを理解する需要・機会・ニーズをどれだけ理解できているか
設計合意した要件を満たすように設計する設計が4つの価値特性の要件をどれだけ満たすか
取得供給者から物品と資源を手に入れる手に入れた物品と資源の品質
構築部品を作って確かめる仕様どおりに作られ、テストで確かめられたか
移行変更を本番に移す本番に持ち込んだエラーの数と、事業への影響
運用日々サービスを動かす合意したサービスレベルに対する実績
提供利用者にサービスを届ける合意したサービスレベルに対する実績
サポート中断のあとにサービスを戻すどれだけ早く通常のサービスに戻したか

3. 運用の言葉:インシデントから既知のエラーまで

用語意味
イベント
event
意味のある状態の変化。(例:サーバーの CPU 使用率が80%を超えた)
インシデント
incident
計画外のサービスの中断、または品質の低下。(例:アプリで本が開けない)
サービス要求
service request
あらかじめ合意された、通常の依頼。(例:パスワードのリセット、領収書の再発行)
問題
problem
インシデントの原因、または原因になりうるもの。
エラー
error
欠陥・不具合そのもの。
既知のエラー
known error
分析が済んだ問題。
災害
disaster
大きな被害を出す、突然の出来事。

流れで覚えます。イベントが起き、サービスが止まればインシデント。インシデントの根っこにあるのが問題。分析して原因(エラー)がわかった問題が既知のエラーです。

4. 構築とリリースの言葉

用語意味
リリース
release
使えるようにしたバージョン。
テスト
test
要件を満たしているか確かめること。
継続的インテグレーション
continuous integration (CI)
コードを頻繁にまとめ、自動テストにかけること。
継続的デリバリー
continuous delivery
いつでも本番に出せる状態を保つこと。本番に出すかは判断して決める。
継続的デプロイメント
continuous deployment
本番への反映まで自動で行うこと。
プロダクト仕様
product specification
プロダクトの要件を定めたもの。
プロトタイプ
product prototype
アイデアを試すための初期の模型。
信頼性
reliability
時間がたっても、意図どおりに動き続ける力。
SRE
site reliability engineering
ソフトウェア工学のやり方で、システムの信頼性を保つ取り組み。
オブザーバビリティ
observability
外に出てくるデータ(ログ・指標など)から、システムの内部の状態を理解できる度合い。
試験のツボ
  • 活動と成功指標の組み合わせが出る。特に「移行=本番に持ち込んだエラー」「サポート=復旧の速さ」。
  • インシデント(中断・低下)、問題(原因)、既知のエラー(分析済みの問題)を区別する。
  • サービス要求は「あらかじめ合意された通常の依頼」で、インシデントではない。
  • 継続的デリバリー(出せる状態)と継続的デプロイメント(自動で出す)の違い。
確認問題1:「同じ障害が3回起きたので、根本原因を調べることにした」。調べる対象は何と呼ぶ?
問題(problem)。インシデントの原因、または原因になりうるもの。
確認問題2:「移行」の成功は何で測る?
本番環境に持ち込んだエラーの数と、事業への影響。

第14章 管理プラクティスManagement Practices

この章の位置づけバリューチェーンの活動を実際に動かすための「資源のまとまり」を学びます。

1. 管理プラクティスとは

管理プラクティス(management practice)は、仕事を行う、または目的を果たすための、組織の資源のまとまりです。資源には、人、プロセス、ツール、情報、パートナーなどが含まれます。

プラクティスは「手順書」ではありません。たとえば「インシデント管理」というプラクティスには、担当する人、対応の流れ、使う道具、蓄えた知識、協力する外部の会社までが含まれます。

プラクティスとほかの概念の関係はこうです。

2. 2つのグループ

グループ中身問題文の手がかり
一般管理プラクティス
general management practices
一般的な経営管理から取り入れて調整したもの。組織全体で広く使う「一般的な経営管理から取り入れた」
プロダクトとサービスの管理プラクティス
product and service management practices
デジタル・プロダクトとサービスの管理のために特に作られたもの「デジタル・プロダクトとサービスのために特に作られた」

Foundation 試験では、個々のプラクティスの細かい中身は問われないとされています。2つのグループの違いを押さえれば十分です。

3. ITIL プラクティス・ガイド

ITIL プラクティス・ガイド(ITIL Practice Guide)は、1つのプラクティスについての、一貫した詳しい手引きです。すべてのガイドが同じ形式で書かれていて、目的と主要な用語、そして4つの側面にそって構成されています。

4. メトリクスと重要成功要因

例:ヨムナビのサポート CSF は「問い合わせに素早く対応できること」。それを確かめるメトリクスは「初回回答までの平均時間」「1回で解決した割合」です。
資料による違い 01・02 の Guidebook は、「34のプラクティス」と「3つのクラスター(MSF・PIC・CAI)」を紹介しています。このクラスターは、上級資格「プラクティス・マネージャー」の分け方です。Foundation 試験で押さえるのは、上の「2つのグループ」です。
試験のツボ
  • プラクティス=組織の資源(人・プロセス・ツール・情報・パートナー)のまとまり。
  • プラクティスは活動に資源を与え、バリューストリームの中で使われる。
  • プラクティス・ガイドは4つの側面にそって構成されている。
  • メトリクス(測定値)と CSF(必要な前提条件)の違い。
確認問題1:「めざす結果に欠かせない前提条件」を何と呼ぶ?
重要成功要因(critical success factor, CSF)。
確認問題2:「管理プラクティスとは、作業手順書のことである」。正しい?
誤り。人・プロセス・ツール・情報・パートナーなど、仕事を行うための組織の資源のまとまり。

第15章 継続的改善モデルThe ITIL Continual Improvement Model

この章の位置づけ改善を進めるための7つのステップを学びます。各ステップの順番と役割が出題されます。

継続的改善モデル(continual improvement model)は、改善の取り組みを進めるための、くり返し使える7つのステップです。7まで終わったら、また1に戻ります。

ステップすること問題文の手がかりよくある誤り
1. ビジョンは何か?
What is the vision?
改善の目的を決め、組織のビジョンと目標につなげる「ビジョンに合わせる」「方向を決める」大きな目標とつながらないまま始める
2. 現状はどうか?
Where are we now?
現状を測り、客観的な基準(ベースライン)をつくる「現状を測る」「基準をつくる」基準をつくらない
3. どこを目指すのか?
Where do we want to be?
測れる目標の状態を決める「目標を決める」あいまいで、ステップ6で測れない目標
4. どうやって目標を達成するか?
How do we get there?
基準から目標へ進む計画を立てる「改善を計画する」「やり方を決める」計画なしに動き出す
5. 行動を起こす
Take action
計画を実行する(ふつうは反復しながら)「実施する」「計画を実行する」一度の大きな変更として扱う
6. 目標を達成したか?
Did we get there?
測定して、目標に届いたか確かめる「結果を検証する」「成功を確認する」ステップ2の基準づくりと混同する
7. どのように勢いを維持するか?
How do we keep the momentum going?
改善を定着させ、さらに積み上げる「改善を維持する」「続ける」6で止めてしまう
例:ヨムナビのアプリ起動の遅さを改善する
  • 1:「ストレスなく読書を始められる」というビジョンにつなげる。
  • 2:今の起動時間を測る → 平均4秒。
  • 3:目標を決める → 2秒以内。
  • 4:画像の読み込みを後回しにする計画を立てる。
  • 5:2週間ごとに少しずつ改修を出す。
  • 6:測り直す → 1.8秒。達成。
  • 7:起動時間を毎週チェックする仕組みと、新機能の審査基準に組み込む。

「継続的改善」には3つの顔がある

そして、継続的改善は全員の責任です。専任の担当者だけの仕事ではありません。

試験のツボ
  • 7ステップの順番。特に2(現状)と3(目標)、6(確認)と7(維持)。
  • ステップ2は「現状からはじめる」原則とつながる。
  • くり返し使うサイクルで、一度きりではない。
  • 継続的改善は全員の責任。
確認問題1:「改善前に、問い合わせの平均解決時間を測って記録した」。何番目のステップ?
2. 現状はどうか?(Where are we now?)
確認問題2:「改善の成果が元に戻らないよう、新しいやり方を標準手順に組み込んだ」。何番目のステップ?
7. どのように勢いを維持するか?(How do we keep the momentum going?)

領域5 バリューストリームの特定・マッピング・管理Domain 5 — Value stream identification, mapping, and management

領域3・4で、8つの活動とバリューチェーンを学びました。領域5では、それを実際の仕事の「流れ」として組み立て、目に見えるようにし、良くしていく方法を学びます。

第16章 バリューストリームの主要概念Key Concepts of Value Stream Mapping and Management

この章の位置づけバリューストリームとは何か、何ではないかを学びます。バリューチェーン・プロセスとの違いが最重要です。

1. バリューストリームとは

バリューストリーム(value stream)は、プロダクトやサービスをつくって利用者に届けるために、組織が行う一連の手順です。8つの活動を、特定の場面に合わせた道筋に組み合わせたものです。

2. バリューチェーン・バリューストリーム・プロセス

バリューチェーンバリューストリームプロセス
何か8つの活動からなる運営モデル特定のプロダクト・サービスのための、端から端までの道筋活動の中で使う、決まった手順のまとまり
範囲組織全体に共通場面ごと、需要ごと活動の中で再利用できる部品
使い方共通の土台を、場面ごとに組み替える需要ごとに新しく組み立てる必要な所でくり返し使う
それだけで利用者に価値を届けるか価値をつくる「しくみ」を定めるはい。価値をつくって届ける流れそのものいいえ。流れの中の部品

たとえると、バリューチェーンは「料理ができる台所と調理の工程の全種類」、バリューストリームは「今日のカレーを作る段取り」、プロセスは「玉ねぎを炒める手順」です。

3. コアとイネーブリング

例:ヨムナビ 「読者が本を買って読む」流れはコア。「新しく入った社員にパソコンとアカウントを用意する」流れはイネーブリング(社内向けで、コアを支える)。

4. マッピングと管理

詳しくは第18章で扱います。

5. 複雑性思考

複雑性思考(complexity thinking)は、仕事が置かれている状況によって、ふさわしいやり方が変わるという考え方です。状況は3つに分けられます。

この考え方は、どこまで標準化し、どこから試行錯誤するかを決める目安になります(第17章)。

試験のツボ
  • バリューストリーム=特定の場面の道筋。バリューチェーンそのものでも、プロセスでもない。
  • コア=外部の利用者へ直接、イネーブリング=社内向けでコアを支える。
  • 複雑性思考の3つの状況(秩序だった・複雑・混沌)。
確認問題1:「社員の退職時に、アカウントを止めて端末を回収する流れ」。コア?イネーブリング?
イネーブリング・バリューストリーム。社内向けで、コアの流れを支える。
確認問題2:「バリューストリームは、組織全体に共通の運営モデルである」。正しい?
誤り。それはバリューチェーン。バリューストリームは特定の場面のための道筋。

第17章 バリューストリームの適用Application of Value Streams

この章の位置づけバリューストリームを実際に組み立てるとき、仕事の性質に合わせてどう最適化するかを学びます。

1. 仕事の複雑さに合わせて最適化する

流れの中の手順は、どれも同じやり方で良くすればよいわけではありません。仕事の複雑さに合わせてやり方を変えます。

予測できる(秩序だった)仕事
predictable (ordered) work
複雑な(不確かな)仕事
complex (uncertain) work
性質原因と結果がわかっていて、くり返せる原因と結果があとからしかわからない。新しい
良くする方法手順を標準化し、自動化する試す、協力する、すばやくフィードバックを得る
例定型のパスワードリセット新しいデジタル・プロダクトの開発
やり方を間違えると手作業のままだと、速さとばらつきの少なさを失う無理に自動化すると、価値が下がる
うまくいっている状態速く、ぶれない学びながら適応し、仕事は流れ続ける

2. 需要が違えば、流れも違う

バリューストリームは、8つの活動をその場面に合わせた道筋に組み合わせて作ります。

例として、運用系の流れ(インシデントの解決など)と、開発系の流れ(新機能の開発など)が挙げられます。どちらも目指すのは、仕事がよどみなく流れることです。

例:ヨムナビの2つの流れ
  • 「本が開けない」インシデントの解決:サポート → 運用 → (必要なら)構築 → 移行 → サポート。予測できる部分は手順化と自動化。
  • 「AI による本の要約機能」の開発:発見 → 設計 → 構築 → 発見 → 設計 → 構築 … → 移行 → 提供。正解がわからないので、試作と利用者の反応をくり返す。
同じ「構築」が両方の流れに出てきます。2つ目の流れでは、発見・設計・構築が何度も出てきます。
試験のツボ
  • 予測できる仕事=標準化と自動化。複雑な仕事=試行とフィードバック。
  • すべてに同じやり方を当てはめるのは誤り。
  • 同じ活動が複数の流れに、また1つの流れに何度も出てよい。
確認問題1:「まだ前例のない、AI を使った新サービスの企画」。どう進めるのがふさわしい?
複雑な仕事なので、試作・協働・すばやいフィードバックで進める。固い手順書や自動化はふさわしくない。
確認問題2:「1つのバリューストリームの中で、同じ活動は1回しか使えない」。正しい?
誤り。同じ活動が何度出てきてもよい。

第18章 マッピングと管理の目的Purpose of Value Stream Mapping and Management

この章の位置づけバリューストリームを「図にする」ことと「管理する」ことが、なぜ必要で、どう役割分担しているかを学びます。

1. 何のために行うのか

バリューストリームのマッピングと管理の目的は、価値の流れを理解し、最適化し、改善し続けることです。具体的には、ムダ、ボトルネック(流れが詰まる所)、遅れ、チーム間の受け渡しを見つけて減らします。見つかった改善の種は、継続的改善の取り組みにつながります。

2. 2つの役割分担

バリューストリーム・マッピングバリューストリーム管理
何か1つのバリューストリームを図にする技法バリューストリームを統制し、最適化し続ける取り組み
頻度1回、または定期的。ある時点の写真継続的。実績を追い、改善を進める
生み出すものバリューストリーム・マップ責任者がいて、測られ、改善され続ける流れ
責任者や指標を決めるかいいえ。今の流れを描くだけはい。責任者を決め、KPI を定め、ボトルネックを取り除く
改善での役割どこが詰まっているか、ムダかを明らかにするマップが示したことに手を打ち、改善を実現する

マッピングが「気づき」を与え、管理がそれを「行動」に変えます。

3. バリューストリーム・マップに描くもの

マップは、ふつう今の実際の流れ(理想の手順書ではなく)を描きます。それが改善の出発点になるからです。時間と流れのデータから、ボトルネックと、いちばん効く改善の的がわかります。

例:ヨムナビの「新刊の配信」の流れを図にする 出版社からデータが届く → 形式を確認(30分)→ 担当者の承認待ち(2日) → 配信設定(1時間)→ 公開。作業そのものは合計2時間弱なのに、リードタイムは2日以上。いちばんの改善の的は「承認待ち」だとわかります。管理の側では、この流れの責任者を決め、「入稿から公開まで24時間以内」という指標を置き、毎週追いかけます。
試験のツボ
  • マッピング=時々・ある時点の写真。管理=継続的。
  • 管理は、マップの上に「責任者・指標・統制」を加える。
  • マップには、手順、流れ、受け渡し、待ち、時間、価値を生む手順とムダを描く。
  • マップは、ふつう今の実際の流れを描く。
確認問題1:「流れの責任者を決め、リードタイムを毎週測って改善を続けている」。マッピング?管理?
バリューストリーム管理。責任者と指標があり、継続的に行っているため。
確認問題2:マップを作ったら、作業時間の合計は短いのに、全体のリードタイムが長かった。何を探すべき?
待ち時間とボトルネック(承認待ち、チーム間の受け渡しなど)。

領域6 ITIL と AIDomain 6 — ITIL and AI

ITIL 5 で新しく加わった領域です。AI を「使う」ことと、AI を「統制する」ことの両方を学びます。

第19章 AI 入門Introduction to AI

この章の位置づけAI とは何か、従来の自動化とどう違うか、ライフサイクルとバリューチェーンのどこで役立つかを学びます。

1. AI とは

人工知能(artificial intelligence, AI)は、ふつうは人の知能が必要な作業をこなす技術です。決まったルールに従うだけでなく、学び、推論できる点で、従来の自動化と違います。

AI 成熟度(AI maturity)は、組織の AI 活用がどれだけ進み、どれだけきちんと統制されているかの度合いです。「使っている量」だけでなく「統制の質」も含む点に注意します。

2. 3つのタイプを区別する

従来の自動化
traditional automation
生成 AI
generative AI (GenAI)
エージェント型 AI
agentic AI
AI かいいえ(AI がこれを広げる)はいはい
すること決められたルールどおりに手順を実行する新しいコンテンツ(文章・画像・コード)をつくる目標に向けて、自分で考え、判断し、行動する
判断のしかた固定のルール。学ばないデータから学んだパターンをもとに生成する決められた目標と範囲の中で推論する
ITIL での例決まったルールで依頼を担当に振り分けるナレッジ記事や返信の下書きを作る決められた枠の中で、依頼を最初から最後まで処理する
人の関わり人が設定し、人が持ち主出てきたものを人が確認する人が決めた範囲の中で動く。責任は人に残る

3. AI はどこで役立つか

例:ヨムナビ
  • 従来の自動化:「返金」という言葉が入った問い合わせを経理担当に回す。
  • 生成 AI:問い合わせへの返信の下書きを作り、担当者が確認して送る。
  • エージェント型 AI:「3,000円以下の返金は、条件を満たせば自分で判断して処理し、記録を残す」という枠の中で、最後まで処理する。
試験のツボ
  • 生成 AI は「つくる」、エージェント型 AI は「自分で動く」。
  • 従来の自動化は AI ではない。学ばず、ルールどおり。
  • AI による自動化も、人が決めた範囲の中で動く。
確認問題1:「障害の報告文の下書きを作ってくれる AI」は、生成 AI とエージェント型 AI のどちら?
生成 AI。新しいコンテンツ(文章)をつくるため。
確認問題2:AI と従来の自動化の、いちばん大きな違いは?
AI は学び、推論できる。従来の自動化は、決まったルールに従うだけ。

第20章 ITIL の AI ガバナンスITIL AI Governance

この章の位置づけAI を責任をもって使うための統制のしくみと、AI の能力を分類する「6C モデル」を学びます。

1. AI を「使う」ことと「統制する」ことは違う

AI ガバナンス(AI governance)は、AI を責任をもって、倫理的に、統制のもとで使うための、方針・役割・責任・管理策の枠組みです。AI ツールを導入しただけでは、ガバナンスにはなりません。

AI ガバナンスが扱うこと:

第12章のガバナンス(評価・指示・モニタリング)の考え方を、AI に当てはめたものと考えると理解しやすくなります。

2. ITIL AI 能力モデル(6C モデル)

ITIL AI 能力モデル(ITIL AI Capability Model)は、AI の能力を6つに分類し、それぞれに固有のリスクと管理策を対応させる、評価と育成の道具です。頭文字がすべて C なので「6C モデル」と呼ばれます。

手元の資料(01・02 の Guidebook)では、6つの能力は次のように説明されています。

能力中身使い道の例
創出
Creation
新しいコンテンツ・コード・デザインを生み出す開発や制作を速くする
キュレーション
Curation
大量のデータを整理し、関連するものを選び出すナレッジ管理、情報検索
明確化
Clarification
複雑なデータやあいまいな状況を説明するインシデントや問題の診断
認知
Cognition
高度な推論とパターンの認識需要やリスクの予測
コミュニケーション
Communication
自然な言葉でやりとりするAI のサポート窓口、バーチャルアシスタント
コーディネーション
Coordination
分散したシステムをまたいで作業を指揮する複数チームにまたがる作業やリリースの自動化
注意この6つの名前は、第三者がまとめた資料(01・02)によるものです。公式教材で名前と定義を必ず確かめてください。

3. AI ガバナンスと 6C モデルの関係

AI ガバナンス6C モデル
何か方針・役割・責任・管理策の枠組みAI の能力を分類する、評価と育成の道具
答える問いAI の使い方は責任があり、法令を守り、説明できるかこの AI はどの能力を使っていて、どんなリスクがあるか
生み出すもの方向づけ、管理策、人による監督能力の分類と、それに対応するリスク・管理策
関係能力を評価したあと、使い方を統制し続ける能力とリスクに名前をつけ、ガバナンスが統制する対象を示す
試験のツボ
  • AI ツールの導入 ≠ AI ガバナンス。
  • 6C モデルは能力を「評価・分類」する。統制するのはガバナンス。
  • AI ガバナンスには人による監督が必要(完全な自動化ではない)。
  • データの品質とプライバシーが土台。
確認問題1:「6C モデルは、AI の利用を統制するしくみである」。正しい?
誤り。6C モデルは能力を分類し、リスクと管理策を対応させる評価の道具。統制するのは AI ガバナンス。
確認問題2:「AI が出した判断を、人が確認できる手順を設けた」。AI ガバナンスのどの考え方?
人による監督(human oversight)。

領域7 ITIL とほかのフレームワークDomain 7 — ITIL and other frameworks

ITIL は、ほかの考え方と競うものではなく、いっしょに使うものです。この領域では、その代表として DevOps と PRINCE2 との関係を学びます。

第21章 ITIL と DevOpsITIL and DevOps

この章の位置づけ「ITIL は遅い、DevOps は速い、だから対立する」という誤解を解く章です。

1. DevOps とは

DevOps は、開発(Development)と運用(Operations)をつなぎ、価値を途切れなく流すための文化とプラクティスのまとまりです。ツールではありません。中心になるのは、自動化、CI/CD(継続的インテグレーションと継続的デリバリー/デプロイメント)、そして開発と運用が結果への責任を分け合う文化です。

2. 補い合う関係

ITILDevOps
何か管理プラクティス、従うべき原則、バリュー・システムからなる管理の枠組み文化とプラクティスのまとまり(CI/CD、自動化、責任の共有)
主にもたらすもの構造、統制、端から端までの管理速さと、協力し責任を分け合う文化
重視すること統制・リスク管理・継続的改善を効かせながら価値を共創する開発から本番までの、速く・頻繁で・確実な流れ
ライフサイクルでは発見からサポートまで、8つの活動すべてを方向づけるCI/CD で構築・移行・提供を速くする
継続的改善では継続的改善モデルフィードバックのループ

ITIL が「土台と統制」を、DevOps が「速さと文化」をもたらします。組み合わせることで、速さと統制のバランスがとれます。ITIL の従うべき原則(反復して進化する、協働する、最適化してから自動化する、など)は、DevOps の働き方を後押しします。ITIL のライフサイクルは、DevOps のやり方を受け入れられるように作られています。

例:ヨムナビ 開発チームは1日に何度もコードをまとめ、自動テストを通ったものはすぐ本番に出せる(DevOps)。一方で、決済に関わる変更だけは影響を評価してから出す、本番の不具合の数を移行の指標として追う、といった統制は ITIL の考え方で行います。リスクの低い定型の変更は事前に承認しておき、自動で出す、という形で両者がかみ合います。
試験のツボ
  • DevOps はツールではなく、文化とプラクティス。
  • ITIL と DevOps は補い合う(対立しない)。
  • ITIL=構造と統制、DevOps=速さと文化。
  • 継続的改善は両者の共通の土台。
確認問題1:「DevOps を導入するには、特定の CI/CD ツールを買えばよい」。正しい?
誤り。DevOps は文化とプラクティスであり、ツールではない。
確認問題2:ITIL と DevOps を組み合わせると、何のバランスがとれる?
速さ(DevOps)と統制(ITIL)のバランス。

第22章 ITIL と PRINCE2ITIL and PRINCE2

この章の位置づけ「プロジェクト」と「続いているサービス」の違いから、ITIL と PRINCE2 の役割分担を学びます。

1. なぜ ITIL にプロジェクト管理が必要か

プロジェクト(project)は、始まりと終わりが決まった一時的な取り組みです。ITIL は、変革や大きな変更を実現するときに、プロジェクトに頼ります。新しいサービスを作る、大きなシステムを入れ替える、といった仕事です。

2. PRINCE2 とは

PRINCE2(PRojects IN Controlled Environments)は、構造化されたプロジェクトマネジメントの手法です。段階を区切り、役割を決めて進めます。土台にあるのはビジネス正当性の継続(continued business justification)、つまり「このプロジェクトを続ける事業上の理由が、今もあるか」を確かめ続けることです。PRINCE2 が管理するのはプロジェクトであって、続いているサービスではありません。

3. 補い合う関係

PRINCE2ITIL
何か構造化されたプロジェクトマネジメント手法プロダクトとサービスを継続的に管理する枠組み
対象プロジェクト:決まった変更やプロダクトを届ける、一時的で統制された取り組み本番で動き続けているプロダクトとサービス
時間一時的。始まりと終わりがある継続的。運用している限り続く
中心の考え段階、役割、ビジネス正当性の継続価値の共創、従うべき原則、バリュー・システム、継続的改善
ライフサイクルでは新規・変更したサービスを作り、本番へ届ける(Guidebook では、特に取得・構築・移行で相性がよいとしている)届いたサービスを運用し、サポートし、改善し続ける

流れで言うと、新しいサービスはプロジェクト(PRINCE2)で作られ、完成したら ITIL で運用・改善される、となります。完了したプロジェクトは、その成果物を ITIL の側に引き渡します。ITIL はほかの手法を置き換えるのではなく、ほかの手法と並んで働きます。

例:ヨムナビの「海外版アプリ」 海外版の立ち上げは、期間と予算が決まった PRINCE2 のプロジェクトとして進めます。途中で「現地の市場が縮んだ」とわかれば、ビジネス正当性を見直して中止も検討します。リリースしたあとの日々の運用・サポート・改善は、ITIL のやり方で続けます。
試験のツボ
  • PRINCE2=プロジェクト(一時的)、ITIL=続いているサービス(継続的)。
  • 二者択一ではなく、補い合う。
  • PRINCE2 の土台は「ビジネス正当性の継続」。
  • 場面に合わせて選ぶ:期限のある変更→PRINCE2、続く運用→ITIL。
確認問題1:「6か月で新しい会員管理システムを導入する」。主に管理するのは PRINCE2 と ITIL のどちら?
PRINCE2。始まりと終わりがある一時的な取り組み(プロジェクト)のため。導入後の運用は ITIL。
確認問題2:PRINCE2 で、プロジェクトの途中に「続ける理由がまだあるか」を確かめ続ける考え方を何と呼ぶ?
ビジネス正当性の継続(continued business justification)。

試験の受け方と総まとめExam preparation and final review

試験の形式

項目内容
形式多肢選択式(選択肢から選ぶ)
問題数40問
合格ライン65%(26問正解)
時間60分
持ち込み不可(クローズドブック)
言語当初は英語のみ(各国語版は準備中)
注意この表は、手元の 01・02 の Guidebook によるものです。申し込みの前に、PeopleCert の公式ページで最新の条件を確かめてください。英語で受けることになる可能性が高いので、このガイドでは英語の原語を必ず添えています。

出題のされ方と解き方

英語の問題では、キーワードの言い回しが手がかりになります。たとえば「fit for purpose」なら有用性、「evaluate, direct, monitor」ならガバナンス、「a set of organizational resources」なら管理プラクティスです。

まぎらわしいペア 総まとめ

ペア見分け方章
有用性 / 保証何をするか(fit for purpose)/ 約束どおり動くか(fit for use)1
UX / CX1つのプロダクト / 関係全体2
XLA / SLA体験が目標 / サービスレベルが目標2
ミッション / ビジョン / パーパス今 / 未来 / 誰のために・なぜ2
変更 / 変革 / BAU少しずつ / 根本から / 日常2
グッズ / アクセス / サービス・アクション所有権が移る / 移らない / 提供者が作業する3
アウトプット / アウトカム成果物 / 望む結果4
スポンサー / 顧客 / ユーザーお金を出す / 要求を決める / 使う5
サービス品質 / サービスレベル / SLA特性の全体 / 測った値 / 文書の合意5
組織と人材 / パートナーとサプライヤー自社の人 / 外部の会社と契約6
内部要因 / 外部要因4つの側面(管理できる)/ PESTLE(管理できない)7
移行 / 運用 / 提供 / サポート本番へ移す / 動かし続ける / 届け続ける / 通常に戻す9
指示 / モニタリング方針を決める / 守られているか確かめる12
インシデント / 問題 / 既知のエラー中断・低下 / 原因 / 分析済みの問題13
メトリクス / CSF測定値 / 欠かせない前提条件14
CI モデルのステップ2 / 6現状の基準をつくる / 目標に届いたか確かめる15
バリューチェーン / バリューストリーム / プロセス運営モデル / 場面ごとの道筋 / 手順の部品16
コア / イネーブリング外部の利用者へ / 社内向け16
マッピング / 管理ある時点の写真 / 継続的な改善18
生成 AI / エージェント型 AIつくる / 自分で動く19
AI ガバナンス / 6C モデル統制する / 能力を分類する20
ITIL / DevOps構造と統制 / 速さと文化21
ITIL / PRINCE2続くサービス / 一時的なプロジェクト22

数で覚えるもの

おすすめの学び方

  1. 「全体の地図」を読み、8つの活動を英語で言えるようにする。
  2. 領域1から順に読み、各章の確認問題を、答えを開く前に自分で答える。
  3. 「まぎらわしいペア」の表を、左の列だけ見て右を言えるまでくり返す。
  4. 英語の模擬問題を解き、間違えた問題の章に戻る。

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