ITIL Foundation(Version 5)解説ガイド
ITIL 5 を体系的に理解し、Foundation 試験に合格するための日本語の解説です。用語には英語の原語を添えています。
0. 全体の地図The big picture of ITIL (Version 5)
ITIL 5 をひとことで言うと
ITIL 5 は、「デジタルのプロダクトとサービスを、一体のものとして管理し、利用者といっしょに価値をつくるための共通言語」です。
ITIL 4 までは「IT サービスをどう管理するか」が中心でした。ITIL 5 では、アプリやシステムといったプロダクトと、それを使えるようにするサービスを、同じ1つの解決策の表と裏として扱います。開発する人、運用する人、事業の人が、同じ言葉で話せるようにするのがねらいです。
22章は、5つの問いに答える構成になっている
いちばん大事なつながり
ITIL 5 の多くの概念は、同じ「8つの活動」を別の角度から見たものです。ここを押さえると、全体が一気につながります。
| 見方 | 8つの活動をどう使うか | 章 |
|---|---|---|
| ライフサイクル Product and Service Lifecycle | 1つのプロダクト・サービスの一生を、8つの活動で描く | 8・9 |
| バリューチェーン value chain | 組織全体の運営モデルとして、8つの活動を持つ | 13 |
| バリューストリーム value stream | ある需要に応えるために、8つの活動をその場面用に並べた道筋 | 16〜18 |
8つの活動は、発見(discover)・設計(design)・取得(acquire)・構築(build)・移行(transition)・運用(operate)・提供(deliver)・サポート(support)です。この順番は、最初に丸ごと覚えてしまいましょう。
ITIL の歴史の中での位置
| ITIL v3 | ITIL 4 | ITIL(Version 5) | |
|---|---|---|---|
| 中心のモデル | サービスライフサイクルの5段階 | サービス・バリュー・システム(SVS) | プロダクトとサービスの統合ライフサイクル+ITIL バリュー・システム |
| 進め方 | 順番どおり・直線的 | 全体的・柔軟 | 状況の複雑さに合わせる・AI 前提 |
| 主な関心 | プロセス | 価値の共創とプラクティス | デジタル・プロダクトとサービス、体験、AI |
ITIL 5 は、ITIL 4 を捨てた「作り直し」ではなく、ITIL 4 の発展形です。価値の共創、従うべき原則、4つの側面、継続的改善といった ITIL 4 の考え方は、ほぼそのまま引き継がれています。
領域1 主要な用語と定義Domain 1 — Key ITIL terms and definitions
この領域は、ITIL の「単語帳」にあたります。ここで覚える言葉は、あとのすべての章で前提として出てきます。試験でも出題数がいちばん多い領域です。
第1章 プロダクトとサービスの管理Product and Service Management
1. デジタル・プロダクトとサービスの管理とは
ITIL 5 では、管理の対象を「サービス」だけから「プロダクトとサービス」に広げました。これをデジタル・プロダクトとサービスの管理(digital product and service management)と呼びます。デジタルのプロダクトとサービスを通じて価値を生み出すための、組織の専門的な能力のまとまりのことです。
以前の ITIL でいう「サービスマネジメント」が発展したもの、と考えてかまいません。違いは、プロダクトとサービスを別々の部署で別々に管理するのではなく、1つの解決策の両面として一緒に管理する点です。
2. プロダクト・サービス・グッズ
| 用語 | 意味 | 見分けるポイント |
|---|---|---|
| プロダクト product | 組織の資源(人・技術・情報など)を組み合わせて、価値を届けられるようにしたもの | 「資源の組み合わせ」 |
| サービス service | 利用者が望む成果を実現できるようにして、価値の共創を可能にするもの。利用者は特定のコストやリスクを自分で抱えなくてよい | 「コストとリスクを利用者が管理しなくてよい」 |
| グッズ(物品) good | 価値をもつ、形のある物。所有権を利用者に移せる | 「所有権が移る」 |
プロダクトとサービスの関係は、こう考えるとわかりやすくなります。組織の資源を組み合わせてプロダクトをつくり、その一部を利用者に届ける形がサービスです。
デジタル・プロダクト(digital product)とデジタル・サービス(digital service)は、デジタル技術で実現・提供されるプロダクトとサービスです。「デジタル」は新しい種類を増やすのではなく、届け方(経路)を表しているだけです。定義の中身は変わりません。
- プロダクト:スマホアプリ、本の配信基盤、決済のしくみ。会社が資源を組み合わせてつくったもの。
- サービス:「夜中でも本を買ってすぐ読める」こと。利用者はサーバーを買ったり、障害に備えたりしなくてよい。
- グッズ:ヨムナビが専用の読書端末を販売したら、それはグッズ(所有権が利用者に移る)。
3. サービスの4つの価値特性
サービスの良さは、1つの物差しでは測れません。ITIL 5 は次の4つの特性で考えます。
| 特性 | 答える問い | 合言葉 | 何で実現するか |
|---|---|---|---|
| 有用性 utility | 何をしてくれるか | 目的に適う fit for purpose | 利用者の仕事を助ける機能、または制約を取り除く機能 |
| 保証 warranty | 約束どおりに動くか | 使用に適う fit for use | 可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性 |
| ユーザー体験 user experience (UX) | 使っていてどう感じるか | (合言葉なし) | 使いやすさ、プロダクト・サービス・提供者との体験全体 |
| 持続可能性 sustainability | 長く責任を果たせるか | (合言葉なし) | 環境への責任、社会の進歩、経済の成長 |
有用性と保証は ITIL 4 からある考え方です。ITIL 5 では、ここにユーザー体験と持続可能性が加わって4つになりました。
- 有用性:本を検索・購入・閲覧できる。
- 保証:夜間のセール中でもアクセスが集中して落ちない。購入履歴が漏れない。
- ユーザー体験:ページめくりが気持ちよい。迷わず買える。
- 持続可能性:データセンターの電力消費を抑えている。
4. 一生を通して見る:ライフサイクルと継続的改善
デジタル・プロダクトとサービスの管理には、もう2つ大事な考え方があります。ITIL プロダクトとサービスのライフサイクル(生まれてから廃止まで一生を見る)と、継続的改善(continual improvement:変わる要求に合わせて良くし続ける)です。どちらもあとの章で詳しく学びます。
5. ITIL がだれの役に立つか
| 立場 | ITIL から得られるもの |
|---|---|
| 企業 enterprises | 共通の枠組みと言葉。品質の向上、IT と事業目標のすり合わせ、コストとリスクの管理 |
| マネージドサービスプロバイダー managed service providers | 多くの顧客に、一定の品質のサービスを届けるための実践の型と共通の言葉 |
| デジタル・プロダクトのベンダー digital product vendors | プロダクト開発とサービス管理をつなぎ、顧客の体験を良くする方法 |
| 専門職の個人 professionals | 世界で通用する資格、共通の言葉、キャリアに役立つ実践の知識 |
- purpose=有用性、use=保証。この2つの入れ替えは定番のひっかけ。
- 可用性・キャパシティ・セキュリティ・継続性が出たら「保証」。
- UX と持続可能性には「fit for ~」の合言葉はない。
- グッズかどうかは「所有権が移るか」で判断する。
確認問題1:ヨムナビが「障害が起きても30分以内に復旧する」と約束した。これは4つの特性のどれに関わる?
確認問題2:「デジタル・サービスは、プロダクトやサービスとは別の新しい種類である」。正しい?
第2章 体験・戦略・変革Experience, Strategy and Transformation
3つのグループは、それぞれ別の問いに答えます。
| 体験 ITIL Experience | 戦略 ITIL Strategy | 変革 ITIL Transformation | |
|---|---|---|---|
| 中心の問い | 人はやりとりをどう感じているか | 組織はどこへ、なぜ向かうのか | そこへ行くために、組織はどう変わるのか |
| 主な用語 | 体験、デジタル体験、信頼、UX、CX、XLA、人間中心設計 | 戦略、事業戦略、デジタル戦略、ミッション、ビジョン、パーパス、VUCA、リーダーシップ | 変更、変革、BAU |
1. 体験(Experience)のグループ
体験(experience)とは、人が組織とのやりとりについてどう考え、どう感じるかです。そのうち、デジタルの経路を通したものがデジタル体験(digital experience)です。
体験には、範囲の違う2つがあります。
- ユーザー体験(user experience, UX):1つのプロダクトやサービスを使ったときの体験。
- カスタマー体験(customer experience, CX):顧客が組織との関係全体を通じて持つ、すべてのやりとりの体験。
体験を良くするための考え方として、次の3つがあります。
- 信頼(trust):相手が確実で誠実だと信じられること。AI の判断やデータの扱いが見えることも、信頼につながる。
- 人間中心設計(human-centred design):人のニーズを設計の真ん中に置くこと。
- 体験レベル合意(experience level agreement, XLA):技術的な数値(稼働率など)だけでなく、利用者の体験そのものを目標にする合意。
2. 戦略(Strategy)のグループ
戦略(strategy)は方向を決めるものです。範囲によって呼び名が変わります。
- 事業戦略(business strategy):事業全体の方向。
- デジタル戦略(digital strategy):デジタル技術を使って事業目標を達成する方向。デジタル中心の組織では、事業戦略とほぼ重なる。
組織の方向を示す3つの言葉は、時間の向きで区別します。
| 言葉 | 答える問い | 時間 |
|---|---|---|
| ミッション mission | いま何をしていて、なぜ存在するのか | 現在 |
| ビジョン vision | 将来どうなりたいのか | 未来 |
| パーパス purpose | 利用者や関係者のために何をするのか、なぜか | (誰のためか) |
VUCAは、変動(volatility)・不確実(uncertainty)・複雑(complexity)・あいまい(ambiguity)な環境のことです。こういう環境で人を目標へ導くのがリーダーシップ(leadership)です。
3. 変革(Transformation)のグループ
| 言葉 | 意味 | イメージ |
|---|---|---|
| 変更 change | プロダクト・サービス・仕事のやり方などを変えること | 少しずつ積み重ねる |
| 変革 transformation | 組織の動き方そのものを根本から変えること | 深く、根本から |
| 通常業務 business as usual (BAU) | 確立した業務をいつもどおり回している状態 | 安定した日常 |
- UX=1つのプロダクト、CX=関係全体。どちらも出題が非常に多い。
- XLA=体験が目標、SLA=サービスレベルが目標。
- ミッション=今、ビジョン=未来、パーパス=誰のために・なぜ。
- 変更=少しずつ、変革=根本から、BAU=日常。変革と BAU は出題が多い。
確認問題1:「当社は10年後、アジアで最も信頼される読書の場になる」。ミッション・ビジョン・パーパスのどれ?
確認問題2:問い合わせ窓口、請求、アプリ、メールなど、顧客が組織と関わるすべての体験を何と呼ぶ?
第3章 サービス・オファリングService Offerings
サービス・オファリング(service offering)は、ある利用者グループに向けて、提供するサービスを正式に説明したものです。メニュー表のようなものと考えるとよいでしょう。中身は次の3つの組み合わせでできていて、組み合わせ方は利用者グループごとに変えられます。
| グッズの移転 transfer of goods | リソースへのアクセス access to resources | サービス・アクション service actions | |
|---|---|---|---|
| 中身 | 形ある物の所有権を利用者に渡す | 提供者の資源を、決めた条件で利用者が使える | 提供者が利用者のために作業をする |
| 所有権 | 利用者に移る | 提供者に残る | (渡す物はない) |
| だれが作業するか | 渡したあとは利用者の責任 | 認められた範囲で利用者が自分で使う | 提供者が作業する |
| 例 | ノートPCやスマホの支給 | クラウドストレージ、ネットワーク、アプリ | サービスデスクが依頼を解決する |
| デジタル・サービスでは | 少ない | 主なやりとりの形 | 自動化やセルフサービスで減らすことが多い |
サービス・インタラクション(service interactions)は、提供者と利用者が価値を共創するために関わり合うやり方全般を指します。デジタル・サービスでは、利用者が提供者の資源に自分でアクセスする形が中心になります。
- 個人向け:本の配信基盤へのアクセス(リソースへのアクセス)が中心。困ったらチャットで回答(サービス・アクション)。
- 法人向け:社員用の読書端末を貸与ではなく販売(グッズの移転)、社内研修用の本棚へのアクセス、導入時の設定代行(サービス・アクション)。
- 「デジタル・サービスの主なやりとりの形は?」→ リソースへのアクセス。
- 所有権が移る=グッズ、移らない=アクセス、物がなく提供者が作業する=サービス・アクション。
- デジタルの提供者は、自動化・セルフサービスでサービス・アクションを減らす傾向がある。
確認問題1:社員がパスワードを自分でリセットできる画面を用意した。サービス・アクションは増える?減る?
確認問題2:オンライン会議ツールを月額で使えるようにした。3つの構成要素のどれ?
第4章 価値の共創Value Co-creation
1. 価値とはなにか、だれが決めるのか
価値(value)は、あるものから感じられる便益・有用さ・大切さです。キーワードは「感じられる(perceived)」です。価値があるかどうかを判断するのは、提供者ではなく受け取る側です。
そして ITIL では、価値は共創される(co-created)と考えます。提供者がサービスを用意し、利用者がそれを使いこなす。この協力があって初めて価値が生まれます。どんなに優れたアプリでも、利用者が使い方を知らなければ価値は生まれません。
2. 成果を、コストとリスクと比べる
価値は、得られる良いこと(成果)と、そのために負うもの(コストとリスク)をまとめて比べて判断します。良いことが上回れば、価値があると感じられます。
| 用語 | 意味 | 価値の共創での役割 | ひっかけ |
|---|---|---|---|
| コスト cost | 活動や資源にかかるお金 | 成果と比べる。サービスは利用者のコストを減らす面と新たに課す面の両方がある | 利用料だけをコストと考え、減らしたコストを忘れる |
| リスク risk | 損害を与えたり、目標達成を難しくしたりするかもしれない出来事 | 成果と比べる。サービスはリスクを減らす面と新たに生む面の両方がある。なくすのではなく最適化する | サービスはリスクを減らすだけ、と考える |
- 減ったコスト:本棚を買わなくてよい。書店へ行く交通費がかからない。
- 新しいコスト:月額料金。
- 減ったリスク:本をなくしたり、汚したりしない。
- 新しいリスク:サービスが終了したら読めなくなる(提供者への依存)。
3. アウトプットとアウトカム
ここは試験で特に大事な区別です。
- アウトプット(output):活動が生み出す成果物。形があってもなくてもよい。例:月次レポート、用意したサーバー。
- アウトカム(outcome):関係者が望む結果。1つ以上のアウトプットによって可能になる。例:よりよい意思決定、受注処理の高速化。
アウトプットは「サービスが生み出すもの」、アウトカムは「それによって可能になる結果」です。アウトプットを渡しても、アウトカムが達成されたとは限りません。レポートを送っても、だれも読まなければ意思決定は良くなりません。
4. 価値を左右するものと、フィードバック
利用者が感じる価値には、第1章の4つの特性(有用性・保証・ユーザー体験・持続可能性)がそれぞれ寄与します。そしてフィードバック(feedback)が、何をどう良くすべきかを示し、価値の共創を前に進めます。ITIL 5 では、フィードバックは最後のアンケートだけでなく、日々集まるデータとして扱う考え方が強まっています。
- 価値を判断するのは受け取る側。提供者のコストで価値を測らない。
- アウトプット(成果物)とアウトカム(望む結果)の区別は頻出。
- サービスは、コストもリスクも「減らす」「課す」の両方がある。
- リスクは「なくす」のではなく「最適化する」。
確認問題1:「毎週の売上ダッシュボード」と「在庫切れが減った」。アウトプットはどっち?
確認問題2:クラウドに移行して自社サーバーの保守が不要になったが、通信障害で業務が止まる心配が生まれた。これを価値の共創ではどう考える?
第5章 サービス関係Service Relationships
1. 関係の当事者
- 組織(organization):独自の機能・権限・関係をもつ人や集団。1人の個人でも、大企業でもよい。
- サービス提供者(service provider):サービスを提供する側。
- サービス利用者(service consumer):サービスを受け取って使う側。
- デジタル・プロダクトのベンダー(digital product vendor):継続的なサービス関係を運営するのではなく、デジタル・プロダクトを供給する側。
これらをまとめる大きな枠がサービス関係(service relationship)です。提供者と利用者が価値を共創するための協力関係のことです。
2. 利用者側の3つの役割
| 役割 | すること | 主な関心 |
|---|---|---|
| スポンサー sponsor | サービス利用の予算を承認する | 投資対効果 |
| 顧客 customer | サービスへの要求を決め、結果に責任を持つ | 事業の課題が解決するか |
| ユーザー user | サービスを実際に使う | 使いやすさ |
1人が複数の役割を兼ねることもあります。個人で電子書籍を買う人は、スポンサー(お金を出す)・顧客(何が欲しいか決める)・ユーザー(読む)を1人で兼ねています。
3. 関係の深さ:3つのタイプ
| 基本的 basic | 協調的 cooperative | 協働的 collaborative | |
|---|---|---|---|
| 性質 | 取引中心。標準サービスを届ける | 共通の目標に向けて連携する | 密に統合されたパートナー |
| 統合の深さ | いちばん浅い | 中くらい | いちばん深い |
| 情報の共有 | 届けるのに必要な分だけ | 共通の目標のために共有 | 常にオープンに共有 |
| リスクと報酬 | それぞれが別々に持つ | ほぼ別々、努力は連携 | 分かち合う |
| 典型 | 汎用サービスの購入 | 共通の目標のすり合わせ | 成果を共有する戦略的提携 |
4. サービス・ジャーニー
サービス・ジャーニー(service journey)は、利用者がすべての接点を通して経験する、最初から最後までの道のりです。サービスを知る、選ぶ、契約する、使う、困って相談する、やめる、までの全体を指します。
5. 関係を測る:品質・レベル・SLA
| 用語 | 意味 | ひとことで |
|---|---|---|
| サービス品質 service quality | ニーズを満たすことに関わる、サービスの特性の全体 | 特性の全体 |
| サービスレベル service level | 合意した目標に対して、期待される・達成された実績を測るもの | 測った値 |
| サービスレベル合意 service level agreement (SLA) | 必要なサービスと、期待するサービスレベルを文書で取り決めたもの | 文書の合意 |
- お金を出す=スポンサー、要求を決める=顧客、使う=ユーザー。役割の説明から名前を当てる問題が多い。
- 関係の3タイプは「浅い順・深い順」に並べさせる問題が出る。基本的→協調的→協働的。
- 品質(特性の全体)・レベル(測った値)・SLA(文書)を区別する。
確認問題1:「必要な情報だけをやりとりし、リスクは各自が持つ」関係は?
確認問題2:「平均応答時間 1.2 秒(目標 2 秒以内)」は、サービス品質・サービスレベル・SLA のどれ?
領域2 プロダクトとサービス管理の4つの側面Domain 2 — The ITIL four dimensions of product and service management
領域1で「何を目指すか(価値)」を学びました。領域2は、それを実現するときに「何を見落としてはいけないか」を学びます。
第6章 4つの側面(入門)Introduction to the Four Dimensions
プロダクトとサービス管理の4つの側面(four dimensions of product and service management)は、プロダクトやサービスを4つの角度から見るための枠組みです。どれか1つが優れていても、ほかが弱ければ全体はうまくいきません。4つは全体的に(holistically)まとめて考えます。
4つは、「だれが」の2つと、「何を・どうやって」の2つに分けると覚えやすくなります。
| 側面 | 扱うこと | 例 | 混同しやすいもの |
|---|---|---|---|
| だれが | |||
| 組織と人材 organizations and people | 提供者自身の人の面。役割と責任、体制、文化、能力、スキル | チームの体制、リーダーシップ、研修、チームの文化 | 外部の会社やその契約(→パートナーとサプライヤー) |
| パートナーとサプライヤー partners and suppliers | サービスに関わる外部の組織との関係と、それを決める契約・合意 | 供給者との契約、SLA、SIAM(service integration and management:複数の供給者をまとめて管理するやり方) | 自社の社員(→組織と人材) |
| 何を・どうやって | |||
| 情報と技術 information and technology | 必要な情報と知識、サービスの中や管理に使う技術 | アプリ、データベース、通信、ワークフロー、AI、クラウド、データそのもの | 仕事がどう流れるか(→バリューストリームとプロセス) |
| バリューストリームとプロセス value streams and processes | 組織自身の活動を、価値を生むようにどう連携させるか | バリューストリーム(一連の手順)、プロセス(インプットをアウトプットに変える活動) | どの外部業者が関わるか(→パートナーとサプライヤー) |
補足です。
- 組織と人材では、ふさわしい文化と、十分な人数(キャパシティ)と能力が必要とされます。
- 情報と技術では、技術を選ぶときにセキュリティ・法令順守・目的への適合性を考えます。
- パートナーとサプライヤーでは、供給者戦略(どこまで自社でやり、どこから外部に任せるか)とサービス統合が扱われます。
- 組織と人材:アプリ開発チームと配信運用チームの体制。読書好きの文化。
- パートナーとサプライヤー:出版社との契約、クラウド事業者との契約、決済代行会社。
- 情報と技術:アプリ、本のデータ、購入履歴のデータベース、おすすめ表示の AI。
- バリューストリームとプロセス:新刊が届いてから配信されるまでの流れ。返金依頼の処理手順。
- 4つの側面はすべてのプロダクト・サービスに当てはまる。どれか1つだけでは足りない。
- 自社の人=組織と人材、他社=パートナーとサプライヤー。
- アプリ・データベース・分析ツールは情報と技術。
- Version 5 での呼び名は「プロダクトとサービス管理の4つの側面」。
確認問題1:「クラウド事業者との契約を見直し、障害時の連絡ルールを決めた」。どの側面?
確認問題2:「新人の研修プログラムを整えた」。どの側面?
第7章 内部要因と外部要因Internal and External Factors
1. 管理できるもの・できないもの
- 内部要因(internal factors):組織が自分で形づくり、管理できるもの。体制・文化・資源・プロセスなど。4つの側面は、この内部要因を表しています。
- 外部要因(external factors):組織の外から来て、ほぼコントロールできないもの。法律、景気、社会の流れなど。組織は、これに対応するしかありません。
外部要因は、4つの側面すべてに影響します。たとえば新しい個人情報保護の法律ができると、社員の教育(組織と人材)、委託先との契約(パートナーとサプライヤー)、データの持ち方(情報と技術)、手続きの流れ(バリューストリームとプロセス)のすべてを見直すことになります。
2. PESTLE:外部要因の6つの分類
| 分類 | 扱うこと | 例 | 混同しやすいもの |
|---|---|---|---|
| 政治的 Political | 政府と政策の影響 | 政府の方針、政情の安定、税制、貿易の規制 | 経済(お金や市場は別の分類) |
| 経済的 Economic | 市場とお金の状況 | 景気、金利、インフレ、為替 | 政治(金利は経済) |
| 社会的 Social | 社会と人口の傾向 | 人口構成、価値観、生活様式 | 自社の社員(それは内部の組織と人材) |
| 技術的 Technological | 技術変化の速さと性質 | イノベーション、自動化、技術の進歩の速さ | 自社が使っている道具(それは内部の情報と技術) |
| 法的 Legal | 法律と順守の義務 | 労働法、データ保護法、安全衛生の法律 | 技術(プライバシーの法律は法的) |
| 環境的 Environmental | 環境と持続可能性の影響 | 気候、環境規制、排出削減の目標 | 法的(データ保護法は法的、排出目標は環境的) |
3. 分類で迷わないコツ
「その要因は、何によって生まれたのか」を考えます。お金の動きなら経済、法律の文言なら法的、政府の姿勢なら政治的、地球環境なら環境的です。「社会」と「技術」は、自社の中の話か、世の中全体の流れかで、内部と外部を分けます。
- 政治的:電子書籍への課税ルールが変わる。
- 経済的:円安でクラウドの利用料が上がる。
- 社会的:若い世代で縦スクロールのマンガが好まれる。
- 技術的:生成 AI による要約機能が当たり前になる。
- 法的:アクセシビリティ対応が法律で義務になる。
- 環境的:データセンターの省エネ目標が求められる。
- 4つの側面=内部要因。外部要因は PESTLE で分析する。
- 外部要因は4つの側面すべてに影響する。
- 金利・インフレ=経済。政情の安定=政治。データ保護法=法的。
- PESTLE の6文字を英語で言えるようにしておく。
確認問題1:「為替の変動で海外のサーバー費用が上がった」。PESTLE のどれ?
確認問題2:「自社のエンジニアの平均年齢が上がっている」。PESTLE の社会的要因?
領域3 プロダクトとサービスのライフサイクルDomain 3 — The ITIL Product and Service Lifecycle
ITIL 5 でいちばん大きく変わった部分です。ITIL v3 の「5段階」に代わる、8つの活動のモデルを学びます。ここで覚える8つの活動は、第13章(バリューチェーン)と第16〜18章(バリューストリーム)でもそのまま使います。
第8章 ライフサイクル(入門)Introduction to the Product and Service Lifecycle
1. 1つの、端から端までのライフサイクル
ITIL プロダクトとサービスのライフサイクル(ITIL Product and Service Lifecycle)は、すべてのプロダクトとサービスに、一連の活動がどう当てはまるかを示す、端から端までのモデルです。機会を見つけたときから、廃止するときまでの一生全体を扱います。
ITIL 5 では、デジタル・プロダクトとサービスを「同じ技術的な解決策の2つの見方」として扱います。だから、両者は同じ1つのライフサイクルを共有し、いっしょに管理されます。このように全体を1つのつながりとして管理する考え方を、エコシステム・アプローチ(ecosystem approach)と呼びます。
2. 8つの活動
この8つは、ITIL v3 の5段階(サービスストラテジ、サービスデザイン、サービストランジション、サービスオペレーション、継続的サービス改善)を、より全体的な形に組み替えたものです。そして第13章のバリューチェーンの8活動とまったく同じです。
3. 順番どおりではない
矢印で並べましたが、これは覚えるための順番です。実際には:
- 順番どおりでも一直線でもない(not sequential nor linear)。必要な活動から使う。
- くり返し使える(iterative)。同じ活動に何度も戻ってよい。
- 同じプロダクトの別のバージョンが、同時に別の活動にいることがある。
- チームは、いくつもの活動に同時にまたがって協力できる。
これは、昔ながらの「計画→構築→運用」(plan-build-run)を順番に受け渡していくやり方に代わるものです。
4. なぜこのモデルが役立つのか
どのプロダクトやサービスにも同じモデルを当てはめるので、品質・リスク・法令順守を、一生を通して一貫したやり方で管理できます。
5. 混同しやすい4つの概念
| 概念 | 何か | 当てはまる範囲 |
|---|---|---|
| ライフサイクル | 8つの活動が一生を通してどう当てはまるかの、全体のモデル | すべてのプロダクト・サービス(機会から廃止まで) |
| バリューチェーン | 8つの活動を持つ、組織の運営モデル | 組織の運営全体 |
| バリューストリーム | ある場面で価値をつくって届けるための、一連の手順 | 特定のプロダクト・サービス・場面 |
| 継続的改善モデル | 改善の取り組みを進めるための、くり返し使える手順 | 改善の取り組み |
- 8つの活動の名前と数は必ず出る。英語で言えるように。
- 「活動は順番に行う」「一直線」→ 誤り。くり返し使えて、同時に進む。
- 8つの活動はバリューチェーンの8活動と同じ。
- 8つの活動は ITIL v3 の5段階に代わるもの。
確認問題1:「ライフサイクルの活動は、発見から順番に1つずつ完了させる必要がある」。正しい?
確認問題2:ライフサイクルと同じ8つの活動を持つ、組織の運営モデルは?
第9章 8つの活動の目的と範囲Purpose and Scope of the Lifecycle Activities
8つの活動は、3つの役割に分けると覚えやすくなります。
| グループ | 活動 | 目的 | 混同しやすい活動 |
|---|---|---|---|
| つくり出す | 発見 discover | 環境・需要・機会を理解して、何が必要か、何を良くできるかを見極める | 設計(解決策を形にするのは設計) |
| 設計 design | 見極めた必要を、4つの価値特性(有用性・保証・UX・持続可能性)を満たす仕様にする | 構築(部品を作って試すのは構築) | |
| 取得 acquire | 必要な部品・物品・資源を、社内や供給者から手に入れて割り当てる | 構築(組み立てて試すのは構築) | |
| 構築 build | 部品を作り、組み合わせ、設定し、仕様どおりかテストする | 移行(本番に出すのは移行) | |
| 本番に移す | 移行 transition | 新規・変更したものを安全に本番へ移し、使える状態か確かめる | 提供(継続的に届ける)、運用(動かし続ける) |
| 本番で価値を保つ | 運用 operate | 本番のサービスと部品を、合意した水準で動かし続ける | 提供(利用者に価値を届けるのは提供) |
| 提供 deliver | 動いているサービスとその価値を、利用者が使える状態に保ち続ける | 移行(1回きりの展開) | |
| サポート support | 問題・インシデント・問い合わせ・依頼に対応し、通常の状態に戻す | 移行(展開)、運用(動かし続ける) |
まぎらわしいペアを整理する
- 発見と設計:発見は「何が必要か」を見極める。設計は「どう実現するか」を形にする。何かを手に入れたり作ったりする前の段階。
- 取得と構築:取得は資源を「持ってくる」。構築は持ってきたものを「組み立てて試す」。
- 移行:作ることと動かすことの橋渡し。リリースして展開し、本番で使える状態か確かめるまで。
- 運用と提供:ITIL 5 は、以前の「サービスオペレーション」を2つに分けました。運用は「システムを動かし続ける」(裏方)。提供は「利用者が価値を受け取れるようにする」(表側)。
- サポート:すでに本番にあるものに対応する。作らないし、展開もしない。運用・提供といっしょに本番の価値を保つ。サポートで集まった声が、発見や設計に戻るきっかけにもなる。
- 発見:目の疲れを訴える利用者が多いことがわかる。
- 設計:読み上げの仕様、速度、聞きやすさ(UX)、省電力(持続可能性)を決める。
- 取得:音声合成エンジンのライセンスを外部から購入する。
- 構築:アプリに組み込み、テストする。
- 移行:段階的に本番に出し、問題がないか確かめる。
- 運用:音声サーバーを監視し、負荷を調整する。
- 提供:利用者が毎日その機能を使える状態を保つ。
- サポート:「読み上げが止まる」という問い合わせに対応して直す。
- 「本番へ安全に移す」→ 移行。「動かし続ける」→ 運用。「利用者に届け続ける」→ 提供。「通常に戻す」→ サポート。
- Version 5 は以前の運用段階を「運用」と「提供」に分けた。
- サポートは何も作らず、何も展開しない。
確認問題1:「新しい決済機能を本番環境に展開し、問題なく使えることを確認した」。どの活動?
確認問題2:「市場の動向と利用者の声から、次に何を作るべきかを見極める」。どの活動?
領域4 ITIL バリュー・システムDomain 4 — The ITIL Value System
領域3では、1つのプロダクト・サービスの一生を見ました。領域4では、組織全体が価値を生み出し続けるための「しくみ」を見ます。章の数がいちばん多い領域です。
第10章 バリュー・システムの構成要素Components of the ITIL Value System
ITIL バリュー・システム(ITIL Value System, ITIL VS)は、機会と需要(opportunity and demand)を受け取り、価値に変えるための、組織全体のしくみです。5つの構成要素が、互いに連携しながら働きます。
| 構成要素 | 組織の中での役割 | 問題文に出る手がかり | 章 |
|---|---|---|---|
| 従うべき原則 guiding principles | どんな状況でも判断と行動を導く、普遍的な推奨 | 「すべての状況に当てはまる推奨」 | 11 |
| ガバナンス governance | 統治機関が組織を方向づけ、統制する | 「方向づけと統制」「評価・指示・モニタリング」 | 12 |
| バリューチェーン value chain | 価値をつくって届けるための、つながった活動の運営モデル | 「つながった活動の集まり」「運営モデル」 | 13 |
| 管理プラクティス management practices | 仕事を行うための、組織の資源のまとまり | 「仕事を行うための資源のまとまり」 | 14 |
| 継続的改善 continual improvement | 要求が変わっても、プロダクト・サービス・プラクティスを有効に保ち続ける | 「関連性を保つための、くり返しの活動」 | 15 |
なぜ「システム」なのか
5つは別々の部品ではなく、互いに支え合います。原則が判断の方向を示し、ガバナンスが方向づけと統制を行い、バリューチェーンが実際に価値を生み、プラクティスがそのための資源を与え、継続的改善が全体を良くし続けます。どれか1つだけを動かしても、価値は安定して生まれません。バリュー・システムは、縦割り(サイロ)にならないよう柔軟に設計されていて、組織全体に当てはまります。
- 構成要素は5つ。名前を英語で言えるように。
- 入力は「機会と需要」、出力は「価値」。
- バリューチェーンは構成要素の1つで、バリュー・システム全体ではない。
- 4つの側面はバリュー・システムの構成要素ではない(第6章)。
確認問題1:ITIL バリュー・システムの5つの構成要素をすべて挙げよ。
確認問題2:「バリュー・システムへの入力は何か?」
第11章 従うべき原則The ITIL Guiding Principles
従うべき原則(guiding principle)は、どんな状況、どんな取り組みにも当てはまる推奨です。ルールや手順ではなく、迷ったときの方位磁針のようなものです。7つあり、1つずつではなく組み合わせて使います。原則どうしは互いに支え合います。
7つの原則
1. 価値に着目する(Focus on value)
組織がすることはすべて、直接か間接的に、関係者の価値につながっているべきです。価値は、提供側の都合ではなく、利用者の視点で定義します。
誤解:提供にかかるコストの大きさで価値を判断する。
2. 現状からはじめる(Start where you are)
ゼロから作り直す前に、今あるものを評価し、使えるものは再利用します。現状は、報告書などの又聞きではなく、現場を直接見て測ります(Guidebook では、仕事が行われる現場を見に行く「ゲンバ(Gemba)」という言葉で説明しています)。
誤解:「何も変えない」こと、または「全部捨てて作り直す」こと。
3. フィードバックをもとに反復して進化する(Progress iteratively with feedback)
大きな仕事を、小さく扱いやすい単位に分けて進めます。各単位の前・途中・後でフィードバックを求め、方向を修正します。
誤解:最後に一度にまとめて出し、そこで初めて意見を聞く。
4. 協働し、可視性を高める(Collaborate and promote visibility)
適切な人を巻き込み、部署の壁を越えて協力します。仕事の進み具合や影響を見えるようにします(例:カンバンボード)。
誤解:関わる人は多いほどよい。(大事なのは「適切な人」)
5. 全体的に考えて取り組む(Think and work holistically)
サービス、プラクティス、供給者などを、1つのシステムとして扱います。単独で成り立つ部分はありません。
誤解:一部だけを最適化して、全体の価値を損なう。
6. シンプルにし、実践的にする(Keep it simple and practical)
成果を出すのに必要な最小の手順にします。価値を生まない手順・作業・指標は取り除きます。
誤解:「シンプル」を「簡単」と同じだと思う。(シンプルにするのは、むしろ難しいことが多い)
7. 最適化し、自動化する(Optimize and automate)
人と技術をいちばんよく活かします。まず最適化し、そのあと価値がある所を自動化します。人の判断が本当に必要な所に、人の力を使います。
誤解:ムダの多い手順を、そのまま自動化する。(ムダが速く大きくなるだけ)
- 利用者にとっての価値(すぐ返金される安心)から考える → 価値に着目する。
- 今の手順を、担当者の横で実際に見て測る → 現状からはじめる。
- 一度に全部変えず、まず小さな改善を出して反応を見る → 反復して進化する。
- 経理と問い合わせ窓口を巻き込み、進み具合をボードで共有する → 協働し、可視性を高める。
- 決済代行会社のしくみも含めて考える → 全体的に考える。
- 3段階の承認のうち、意味のない1つを廃止する → シンプルにする。
- 手順を整えたあとで、少額の返金を自動化する → 最適化してから自動化する。
- 原則は7つ。英語名で覚えると確実(日本語名は資料によって少しずつ違う)。
- 最適化が先、自動化はあと。
- 原則は組み合わせて使う。
- 「現状からはじめる」は、現状を直接観察して測ることを含む。
確認問題1:「改善の前に、今のツールで使い続けられるものがないか洗い出した」。どの原則?
確認問題2:「手作業の承認手続きをそのままロボットで自動化したら、間違いも速く大量に起きた」。どの原則に反している?
第12章 ガバナンスGovernance
ガバナンス(governance)は、組織を方向づけ、統制する手段です。責任を負うのは統治機関(governing body)、たとえば取締役会です。ガバナンスは日々の管理より上の層で働き、バリュー・システム全体を方向づけ、支えます。
ガバナンスとマネジメントの違い
ガバナンスは「何を目指し、どんなルールで動くか」を決めて確かめます。マネジメントは、その方向にそって実際に仕事を計画し、実行します。手を動かす仕事はマネジメントの役割です。
3つの活動:評価・指示・モニタリング
| 活動 | すること | 問題文の手がかり | よくある誤解 |
|---|---|---|---|
| 評価 evaluate | 組織、戦略、ポートフォリオ、関係者との関係の状況を見極める | 「状況を評価する」「ニーズと状況を見直す」 | 順守の確認だと思う(それはモニタリング) |
| 指示 direct | 戦略を決め、責任を割り当て、方針と方向を定める | 「方針を定める」「方向を決める」 | 実際の作業と混同する(それはマネジメント) |
| モニタリング monitor | 実績と結果が、定めた方向と方針に合っているか確かめる | 「順守を確かめる」「遵守状況を検証する」 | 方針を決めることだと思う(それは指示) |
評価して、指示して、モニタリングし、その結果をまた評価に戻す、という流れで回ります(頭文字をとって EDM と呼ぶこともあります)。
- 評価:「海外の利用者が伸びている。法規制はどうか」と状況を見極める。
- 指示:「来期は東南アジアに進出する。個人データは各国の法律に従って扱う」と方針を決め、担当役員を決める。
- モニタリング:四半期ごとに、方針どおりに進み、法律が守られているかを報告させて確かめる。
- 方針を「決める」=指示、守られているか「確かめる」=モニタリング。この2つの入れ替えが定番のひっかけ。
- ガバナンスの責任は統治機関にある。
- ガバナンスはマネジメントより上の層。
確認問題1:「取締役会が、情報セキュリティの方針が各部署で守られているか確認した」。どの活動?
確認問題2:「取締役会が、AI の利用に関する社内ルールを定めた」。どの活動?
第13章 バリューチェーンValue Chain
1. バリューチェーンとは
バリューチェーン(value chain)は、価値をつくって届けるための、互いにつながった活動からなる運営モデル(operating model)です。運営モデルとは、組織がどう価値を共創し、どう自分を動かしているかを表したものです。
Version 5 のバリューチェーンは、ライフサイクルと同じ8つの活動を持ちます。活動は順番どおりではなく、場面ごとに組み合わせて使います(その組み合わせがバリューストリーム)。活動とプラクティスは、組織のパーパス(関係者のために何をするのか、なぜか)と運営モデルを支えます。
2. 8つの活動と、成功の測り方
各活動には、その目的から導かれた主要な成功指標があります。
| 活動 | すること | 成功の測り方 |
|---|---|---|
| 発見 | 需要・機会・利用者ニーズを理解する | 需要・機会・ニーズをどれだけ理解できているか |
| 設計 | 合意した要件を満たすように設計する | 設計が4つの価値特性の要件をどれだけ満たすか |
| 取得 | 供給者から物品と資源を手に入れる | 手に入れた物品と資源の品質 |
| 構築 | 部品を作って確かめる | 仕様どおりに作られ、テストで確かめられたか |
| 移行 | 変更を本番に移す | 本番に持ち込んだエラーの数と、事業への影響 |
| 運用 | 日々サービスを動かす | 合意したサービスレベルに対する実績 |
| 提供 | 利用者にサービスを届ける | 合意したサービスレベルに対する実績 |
| サポート | 中断のあとにサービスを戻す | どれだけ早く通常のサービスに戻したか |
3. 運用の言葉:インシデントから既知のエラーまで
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| イベント event | 意味のある状態の変化。(例:サーバーの CPU 使用率が80%を超えた) |
| インシデント incident | 計画外のサービスの中断、または品質の低下。(例:アプリで本が開けない) |
| サービス要求 service request | あらかじめ合意された、通常の依頼。(例:パスワードのリセット、領収書の再発行) |
| 問題 problem | インシデントの原因、または原因になりうるもの。 |
| エラー error | 欠陥・不具合そのもの。 |
| 既知のエラー known error | 分析が済んだ問題。 |
| 災害 disaster | 大きな被害を出す、突然の出来事。 |
流れで覚えます。イベントが起き、サービスが止まればインシデント。インシデントの根っこにあるのが問題。分析して原因(エラー)がわかった問題が既知のエラーです。
4. 構築とリリースの言葉
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| リリース release | 使えるようにしたバージョン。 |
| テスト test | 要件を満たしているか確かめること。 |
| 継続的インテグレーション continuous integration (CI) | コードを頻繁にまとめ、自動テストにかけること。 |
| 継続的デリバリー continuous delivery | いつでも本番に出せる状態を保つこと。本番に出すかは判断して決める。 |
| 継続的デプロイメント continuous deployment | 本番への反映まで自動で行うこと。 |
| プロダクト仕様 product specification | プロダクトの要件を定めたもの。 |
| プロトタイプ product prototype | アイデアを試すための初期の模型。 |
| 信頼性 reliability | 時間がたっても、意図どおりに動き続ける力。 |
| SRE site reliability engineering | ソフトウェア工学のやり方で、システムの信頼性を保つ取り組み。 |
| オブザーバビリティ observability | 外に出てくるデータ(ログ・指標など)から、システムの内部の状態を理解できる度合い。 |
- 活動と成功指標の組み合わせが出る。特に「移行=本番に持ち込んだエラー」「サポート=復旧の速さ」。
- インシデント(中断・低下)、問題(原因)、既知のエラー(分析済みの問題)を区別する。
- サービス要求は「あらかじめ合意された通常の依頼」で、インシデントではない。
- 継続的デリバリー(出せる状態)と継続的デプロイメント(自動で出す)の違い。
確認問題1:「同じ障害が3回起きたので、根本原因を調べることにした」。調べる対象は何と呼ぶ?
確認問題2:「移行」の成功は何で測る?
第14章 管理プラクティスManagement Practices
1. 管理プラクティスとは
管理プラクティス(management practice)は、仕事を行う、または目的を果たすための、組織の資源のまとまりです。資源には、人、プロセス、ツール、情報、パートナーなどが含まれます。
プラクティスは「手順書」ではありません。たとえば「インシデント管理」というプラクティスには、担当する人、対応の流れ、使う道具、蓄えた知識、協力する外部の会社までが含まれます。
プラクティスとほかの概念の関係はこうです。
- プラクティスは、バリューチェーンの活動に資源を与えて、活動を可能にする。
- プラクティスは、バリューストリームの中で必要に応じて使われる。
2. 2つのグループ
| グループ | 中身 | 問題文の手がかり |
|---|---|---|
| 一般管理プラクティス general management practices | 一般的な経営管理から取り入れて調整したもの。組織全体で広く使う | 「一般的な経営管理から取り入れた」 |
| プロダクトとサービスの管理プラクティス product and service management practices | デジタル・プロダクトとサービスの管理のために特に作られたもの | 「デジタル・プロダクトとサービスのために特に作られた」 |
Foundation 試験では、個々のプラクティスの細かい中身は問われないとされています。2つのグループの違いを押さえれば十分です。
3. ITIL プラクティス・ガイド
ITIL プラクティス・ガイド(ITIL Practice Guide)は、1つのプラクティスについての、一貫した詳しい手引きです。すべてのガイドが同じ形式で書かれていて、目的と主要な用語、そして4つの側面にそって構成されています。
4. メトリクスと重要成功要因
- メトリクス(指標)(metric):管理や改善のために、見張ったり報告したりする測定値・計算値。
- 重要成功要因(critical success factor, CSF):めざす結果を得るために欠かせない前提条件。
- プラクティス=組織の資源(人・プロセス・ツール・情報・パートナー)のまとまり。
- プラクティスは活動に資源を与え、バリューストリームの中で使われる。
- プラクティス・ガイドは4つの側面にそって構成されている。
- メトリクス(測定値)と CSF(必要な前提条件)の違い。
確認問題1:「めざす結果に欠かせない前提条件」を何と呼ぶ?
確認問題2:「管理プラクティスとは、作業手順書のことである」。正しい?
第15章 継続的改善モデルThe ITIL Continual Improvement Model
継続的改善モデル(continual improvement model)は、改善の取り組みを進めるための、くり返し使える7つのステップです。7まで終わったら、また1に戻ります。
| ステップ | すること | 問題文の手がかり | よくある誤り |
|---|---|---|---|
| 1. ビジョンは何か? What is the vision? | 改善の目的を決め、組織のビジョンと目標につなげる | 「ビジョンに合わせる」「方向を決める」 | 大きな目標とつながらないまま始める |
| 2. 現状はどうか? Where are we now? | 現状を測り、客観的な基準(ベースライン)をつくる | 「現状を測る」「基準をつくる」 | 基準をつくらない |
| 3. どこを目指すのか? Where do we want to be? | 測れる目標の状態を決める | 「目標を決める」 | あいまいで、ステップ6で測れない目標 |
| 4. どうやって目標を達成するか? How do we get there? | 基準から目標へ進む計画を立てる | 「改善を計画する」「やり方を決める」 | 計画なしに動き出す |
| 5. 行動を起こす Take action | 計画を実行する(ふつうは反復しながら) | 「実施する」「計画を実行する」 | 一度の大きな変更として扱う |
| 6. 目標を達成したか? Did we get there? | 測定して、目標に届いたか確かめる | 「結果を検証する」「成功を確認する」 | ステップ2の基準づくりと混同する |
| 7. どのように勢いを維持するか? How do we keep the momentum going? | 改善を定着させ、さらに積み上げる | 「改善を維持する」「続ける」 | 6で止めてしまう |
- 1:「ストレスなく読書を始められる」というビジョンにつなげる。
- 2:今の起動時間を測る → 平均4秒。
- 3:目標を決める → 2秒以内。
- 4:画像の読み込みを後回しにする計画を立てる。
- 5:2週間ごとに少しずつ改修を出す。
- 6:測り直す → 1.8秒。達成。
- 7:起動時間を毎週チェックする仕組みと、新機能の審査基準に組み込む。
「継続的改善」には3つの顔がある
- モデル:上の7ステップ。改善の進め方。
- 構成要素:バリュー・システムの5つの構成要素の1つ。組織のすべての層に織り込まれている。
- プラクティス:継続的改善を支える専用の管理プラクティスもある。
そして、継続的改善は全員の責任です。専任の担当者だけの仕事ではありません。
- 7ステップの順番。特に2(現状)と3(目標)、6(確認)と7(維持)。
- ステップ2は「現状からはじめる」原則とつながる。
- くり返し使うサイクルで、一度きりではない。
- 継続的改善は全員の責任。
確認問題1:「改善前に、問い合わせの平均解決時間を測って記録した」。何番目のステップ?
確認問題2:「改善の成果が元に戻らないよう、新しいやり方を標準手順に組み込んだ」。何番目のステップ?
領域5 バリューストリームの特定・マッピング・管理Domain 5 — Value stream identification, mapping, and management
領域3・4で、8つの活動とバリューチェーンを学びました。領域5では、それを実際の仕事の「流れ」として組み立て、目に見えるようにし、良くしていく方法を学びます。
第16章 バリューストリームの主要概念Key Concepts of Value Stream Mapping and Management
1. バリューストリームとは
バリューストリーム(value stream)は、プロダクトやサービスをつくって利用者に届けるために、組織が行う一連の手順です。8つの活動を、特定の場面に合わせた道筋に組み合わせたものです。
2. バリューチェーン・バリューストリーム・プロセス
| バリューチェーン | バリューストリーム | プロセス | |
|---|---|---|---|
| 何か | 8つの活動からなる運営モデル | 特定のプロダクト・サービスのための、端から端までの道筋 | 活動の中で使う、決まった手順のまとまり |
| 範囲 | 組織全体に共通 | 場面ごと、需要ごと | 活動の中で再利用できる部品 |
| 使い方 | 共通の土台を、場面ごとに組み替える | 需要ごとに新しく組み立てる | 必要な所でくり返し使う |
| それだけで利用者に価値を届けるか | 価値をつくる「しくみ」を定める | はい。価値をつくって届ける流れそのもの | いいえ。流れの中の部品 |
たとえると、バリューチェーンは「料理ができる台所と調理の工程の全種類」、バリューストリームは「今日のカレーを作る段取り」、プロセスは「玉ねぎを炒める手順」です。
3. コアとイネーブリング
- コア・バリューストリーム(core value stream):外部の利用者に、直接プロダクトやサービスを届ける流れ。
- イネーブリング・バリューストリーム(enabling value stream):社内の受け手に価値を届け、コアの流れを支える流れ。
4. マッピングと管理
- バリューストリーム・マッピング(value stream mapping):バリューストリームの手順と流れを図にする技法。ある時点の写真。
- バリューストリーム管理(value stream management):バリューストリームを継続的に統制し、最適化する取り組み。
詳しくは第18章で扱います。
5. 複雑性思考
複雑性思考(complexity thinking)は、仕事が置かれている状況によって、ふさわしいやり方が変わるという考え方です。状況は3つに分けられます。
- 秩序だった(ordered):原因と結果がはっきりしている。決まった手順で進められる。
- 複雑な(complex):原因と結果があとからしかわからない。試しながら進める。
- 混沌とした(chaotic):原因と結果のつながりが見えない。まず状況を安定させる。
この考え方は、どこまで標準化し、どこから試行錯誤するかを決める目安になります(第17章)。
- バリューストリーム=特定の場面の道筋。バリューチェーンそのものでも、プロセスでもない。
- コア=外部の利用者へ直接、イネーブリング=社内向けでコアを支える。
- 複雑性思考の3つの状況(秩序だった・複雑・混沌)。
確認問題1:「社員の退職時に、アカウントを止めて端末を回収する流れ」。コア?イネーブリング?
確認問題2:「バリューストリームは、組織全体に共通の運営モデルである」。正しい?
第17章 バリューストリームの適用Application of Value Streams
1. 仕事の複雑さに合わせて最適化する
流れの中の手順は、どれも同じやり方で良くすればよいわけではありません。仕事の複雑さに合わせてやり方を変えます。
| 予測できる(秩序だった)仕事 predictable (ordered) work | 複雑な(不確かな)仕事 complex (uncertain) work | |
|---|---|---|
| 性質 | 原因と結果がわかっていて、くり返せる | 原因と結果があとからしかわからない。新しい |
| 良くする方法 | 手順を標準化し、自動化する | 試す、協力する、すばやくフィードバックを得る |
| 例 | 定型のパスワードリセット | 新しいデジタル・プロダクトの開発 |
| やり方を間違えると | 手作業のままだと、速さとばらつきの少なさを失う | 無理に自動化すると、価値が下がる |
| うまくいっている状態 | 速く、ぶれない | 学びながら適応し、仕事は流れ続ける |
2. 需要が違えば、流れも違う
バリューストリームは、8つの活動をその場面に合わせた道筋に組み合わせて作ります。
- 同じ活動が、いくつものバリューストリームに出てきてよい。
- 1つのバリューストリームの中に、同じ活動が何度出てきてもよい。
- 需要の種類が違えば、別のバリューストリームにする。
例として、運用系の流れ(インシデントの解決など)と、開発系の流れ(新機能の開発など)が挙げられます。どちらも目指すのは、仕事がよどみなく流れることです。
- 「本が開けない」インシデントの解決:サポート → 運用 → (必要なら)構築 → 移行 → サポート。予測できる部分は手順化と自動化。
- 「AI による本の要約機能」の開発:発見 → 設計 → 構築 → 発見 → 設計 → 構築 … → 移行 → 提供。正解がわからないので、試作と利用者の反応をくり返す。
- 予測できる仕事=標準化と自動化。複雑な仕事=試行とフィードバック。
- すべてに同じやり方を当てはめるのは誤り。
- 同じ活動が複数の流れに、また1つの流れに何度も出てよい。
確認問題1:「まだ前例のない、AI を使った新サービスの企画」。どう進めるのがふさわしい?
確認問題2:「1つのバリューストリームの中で、同じ活動は1回しか使えない」。正しい?
第18章 マッピングと管理の目的Purpose of Value Stream Mapping and Management
1. 何のために行うのか
バリューストリームのマッピングと管理の目的は、価値の流れを理解し、最適化し、改善し続けることです。具体的には、ムダ、ボトルネック(流れが詰まる所)、遅れ、チーム間の受け渡しを見つけて減らします。見つかった改善の種は、継続的改善の取り組みにつながります。
2. 2つの役割分担
| バリューストリーム・マッピング | バリューストリーム管理 | |
|---|---|---|
| 何か | 1つのバリューストリームを図にする技法 | バリューストリームを統制し、最適化し続ける取り組み |
| 頻度 | 1回、または定期的。ある時点の写真 | 継続的。実績を追い、改善を進める |
| 生み出すもの | バリューストリーム・マップ | 責任者がいて、測られ、改善され続ける流れ |
| 責任者や指標を決めるか | いいえ。今の流れを描くだけ | はい。責任者を決め、KPI を定め、ボトルネックを取り除く |
| 改善での役割 | どこが詰まっているか、ムダかを明らかにする | マップが示したことに手を打ち、改善を実現する |
マッピングが「気づき」を与え、管理がそれを「行動」に変えます。
3. バリューストリーム・マップに描くもの
- 手順の順番と、仕事と情報の流れ。
- チーム間の受け渡し(ハンドオフ)と、仕事が待たされている所。
- 価値を生む手順(value-adding)と、生まない手順=ムダ(non-value-adding, waste)の区別。
- 各手順にかかる時間。これで、全体のリードタイム(lead time:始まりから終わりまでの時間)と待ち時間が見える。
マップは、ふつう今の実際の流れ(理想の手順書ではなく)を描きます。それが改善の出発点になるからです。時間と流れのデータから、ボトルネックと、いちばん効く改善の的がわかります。
- マッピング=時々・ある時点の写真。管理=継続的。
- 管理は、マップの上に「責任者・指標・統制」を加える。
- マップには、手順、流れ、受け渡し、待ち、時間、価値を生む手順とムダを描く。
- マップは、ふつう今の実際の流れを描く。
確認問題1:「流れの責任者を決め、リードタイムを毎週測って改善を続けている」。マッピング?管理?
確認問題2:マップを作ったら、作業時間の合計は短いのに、全体のリードタイムが長かった。何を探すべき?
領域6 ITIL と AIDomain 6 — ITIL and AI
ITIL 5 で新しく加わった領域です。AI を「使う」ことと、AI を「統制する」ことの両方を学びます。
第19章 AI 入門Introduction to AI
1. AI とは
人工知能(artificial intelligence, AI)は、ふつうは人の知能が必要な作業をこなす技術です。決まったルールに従うだけでなく、学び、推論できる点で、従来の自動化と違います。
AI 成熟度(AI maturity)は、組織の AI 活用がどれだけ進み、どれだけきちんと統制されているかの度合いです。「使っている量」だけでなく「統制の質」も含む点に注意します。
2. 3つのタイプを区別する
| 従来の自動化 traditional automation | 生成 AI generative AI (GenAI) | エージェント型 AI agentic AI | |
|---|---|---|---|
| AI か | いいえ(AI がこれを広げる) | はい | はい |
| すること | 決められたルールどおりに手順を実行する | 新しいコンテンツ(文章・画像・コード)をつくる | 目標に向けて、自分で考え、判断し、行動する |
| 判断のしかた | 固定のルール。学ばない | データから学んだパターンをもとに生成する | 決められた目標と範囲の中で推論する |
| ITIL での例 | 決まったルールで依頼を担当に振り分ける | ナレッジ記事や返信の下書きを作る | 決められた枠の中で、依頼を最初から最後まで処理する |
| 人の関わり | 人が設定し、人が持ち主 | 出てきたものを人が確認する | 人が決めた範囲の中で動く。責任は人に残る |
3. AI はどこで役立つか
- ライフサイクル全体で:要件の分析、設計案の生成、テストなど。判断の質と速さを上げる。
- プロセスの自動化で:依頼の仕分け(トリアージ)、担当への振り分け、決まった返答など。ただし、人が決めた範囲の中で動く。
- バリューチェーン全体で:需要の分析、監視、改善など。目的は価値の共創を良くすること。
- 従来の自動化:「返金」という言葉が入った問い合わせを経理担当に回す。
- 生成 AI:問い合わせへの返信の下書きを作り、担当者が確認して送る。
- エージェント型 AI:「3,000円以下の返金は、条件を満たせば自分で判断して処理し、記録を残す」という枠の中で、最後まで処理する。
- 生成 AI は「つくる」、エージェント型 AI は「自分で動く」。
- 従来の自動化は AI ではない。学ばず、ルールどおり。
- AI による自動化も、人が決めた範囲の中で動く。
確認問題1:「障害の報告文の下書きを作ってくれる AI」は、生成 AI とエージェント型 AI のどちら?
確認問題2:AI と従来の自動化の、いちばん大きな違いは?
第20章 ITIL の AI ガバナンスITIL AI Governance
1. AI を「使う」ことと「統制する」ことは違う
AI ガバナンス(AI governance)は、AI を責任をもって、倫理的に、統制のもとで使うための、方針・役割・責任・管理策の枠組みです。AI ツールを導入しただけでは、ガバナンスにはなりません。
AI ガバナンスが扱うこと:
- リスク・法令順守・説明責任。
- 責任ある AI(responsible AI):透明性、説明責任、倫理的な利用を重んじる。
- 人による監督(human oversight):完全に任せきりにせず、人が適切に見張り、関わる。
- データの品質とプライバシー:AI ガバナンスの土台。データが悪ければ AI の判断も悪くなる。
第12章のガバナンス(評価・指示・モニタリング)の考え方を、AI に当てはめたものと考えると理解しやすくなります。
2. ITIL AI 能力モデル(6C モデル)
ITIL AI 能力モデル(ITIL AI Capability Model)は、AI の能力を6つに分類し、それぞれに固有のリスクと管理策を対応させる、評価と育成の道具です。頭文字がすべて C なので「6C モデル」と呼ばれます。
手元の資料(01・02 の Guidebook)では、6つの能力は次のように説明されています。
| 能力 | 中身 | 使い道の例 |
|---|---|---|
| 創出 Creation | 新しいコンテンツ・コード・デザインを生み出す | 開発や制作を速くする |
| キュレーション Curation | 大量のデータを整理し、関連するものを選び出す | ナレッジ管理、情報検索 |
| 明確化 Clarification | 複雑なデータやあいまいな状況を説明する | インシデントや問題の診断 |
| 認知 Cognition | 高度な推論とパターンの認識 | 需要やリスクの予測 |
| コミュニケーション Communication | 自然な言葉でやりとりする | AI のサポート窓口、バーチャルアシスタント |
| コーディネーション Coordination | 分散したシステムをまたいで作業を指揮する | 複数チームにまたがる作業やリリースの自動化 |
3. AI ガバナンスと 6C モデルの関係
| AI ガバナンス | 6C モデル | |
|---|---|---|
| 何か | 方針・役割・責任・管理策の枠組み | AI の能力を分類する、評価と育成の道具 |
| 答える問い | AI の使い方は責任があり、法令を守り、説明できるか | この AI はどの能力を使っていて、どんなリスクがあるか |
| 生み出すもの | 方向づけ、管理策、人による監督 | 能力の分類と、それに対応するリスク・管理策 |
| 関係 | 能力を評価したあと、使い方を統制し続ける | 能力とリスクに名前をつけ、ガバナンスが統制する対象を示す |
- AI ツールの導入 ≠ AI ガバナンス。
- 6C モデルは能力を「評価・分類」する。統制するのはガバナンス。
- AI ガバナンスには人による監督が必要(完全な自動化ではない)。
- データの品質とプライバシーが土台。
確認問題1:「6C モデルは、AI の利用を統制するしくみである」。正しい?
確認問題2:「AI が出した判断を、人が確認できる手順を設けた」。AI ガバナンスのどの考え方?
領域7 ITIL とほかのフレームワークDomain 7 — ITIL and other frameworks
ITIL は、ほかの考え方と競うものではなく、いっしょに使うものです。この領域では、その代表として DevOps と PRINCE2 との関係を学びます。
第21章 ITIL と DevOpsITIL and DevOps
1. DevOps とは
DevOps は、開発(Development)と運用(Operations)をつなぎ、価値を途切れなく流すための文化とプラクティスのまとまりです。ツールではありません。中心になるのは、自動化、CI/CD(継続的インテグレーションと継続的デリバリー/デプロイメント)、そして開発と運用が結果への責任を分け合う文化です。
2. 補い合う関係
| ITIL | DevOps | |
|---|---|---|
| 何か | 管理プラクティス、従うべき原則、バリュー・システムからなる管理の枠組み | 文化とプラクティスのまとまり(CI/CD、自動化、責任の共有) |
| 主にもたらすもの | 構造、統制、端から端までの管理 | 速さと、協力し責任を分け合う文化 |
| 重視すること | 統制・リスク管理・継続的改善を効かせながら価値を共創する | 開発から本番までの、速く・頻繁で・確実な流れ |
| ライフサイクルでは | 発見からサポートまで、8つの活動すべてを方向づける | CI/CD で構築・移行・提供を速くする |
| 継続的改善では | 継続的改善モデル | フィードバックのループ |
ITIL が「土台と統制」を、DevOps が「速さと文化」をもたらします。組み合わせることで、速さと統制のバランスがとれます。ITIL の従うべき原則(反復して進化する、協働する、最適化してから自動化する、など)は、DevOps の働き方を後押しします。ITIL のライフサイクルは、DevOps のやり方を受け入れられるように作られています。
- DevOps はツールではなく、文化とプラクティス。
- ITIL と DevOps は補い合う(対立しない)。
- ITIL=構造と統制、DevOps=速さと文化。
- 継続的改善は両者の共通の土台。
確認問題1:「DevOps を導入するには、特定の CI/CD ツールを買えばよい」。正しい?
確認問題2:ITIL と DevOps を組み合わせると、何のバランスがとれる?
第22章 ITIL と PRINCE2ITIL and PRINCE2
1. なぜ ITIL にプロジェクト管理が必要か
プロジェクト(project)は、始まりと終わりが決まった一時的な取り組みです。ITIL は、変革や大きな変更を実現するときに、プロジェクトに頼ります。新しいサービスを作る、大きなシステムを入れ替える、といった仕事です。
2. PRINCE2 とは
PRINCE2(PRojects IN Controlled Environments)は、構造化されたプロジェクトマネジメントの手法です。段階を区切り、役割を決めて進めます。土台にあるのはビジネス正当性の継続(continued business justification)、つまり「このプロジェクトを続ける事業上の理由が、今もあるか」を確かめ続けることです。PRINCE2 が管理するのはプロジェクトであって、続いているサービスではありません。
3. 補い合う関係
| PRINCE2 | ITIL | |
|---|---|---|
| 何か | 構造化されたプロジェクトマネジメント手法 | プロダクトとサービスを継続的に管理する枠組み |
| 対象 | プロジェクト:決まった変更やプロダクトを届ける、一時的で統制された取り組み | 本番で動き続けているプロダクトとサービス |
| 時間 | 一時的。始まりと終わりがある | 継続的。運用している限り続く |
| 中心の考え | 段階、役割、ビジネス正当性の継続 | 価値の共創、従うべき原則、バリュー・システム、継続的改善 |
| ライフサイクルでは | 新規・変更したサービスを作り、本番へ届ける(Guidebook では、特に取得・構築・移行で相性がよいとしている) | 届いたサービスを運用し、サポートし、改善し続ける |
流れで言うと、新しいサービスはプロジェクト(PRINCE2)で作られ、完成したら ITIL で運用・改善される、となります。完了したプロジェクトは、その成果物を ITIL の側に引き渡します。ITIL はほかの手法を置き換えるのではなく、ほかの手法と並んで働きます。
- PRINCE2=プロジェクト(一時的)、ITIL=続いているサービス(継続的)。
- 二者択一ではなく、補い合う。
- PRINCE2 の土台は「ビジネス正当性の継続」。
- 場面に合わせて選ぶ:期限のある変更→PRINCE2、続く運用→ITIL。
確認問題1:「6か月で新しい会員管理システムを導入する」。主に管理するのは PRINCE2 と ITIL のどちら?
確認問題2:PRINCE2 で、プロジェクトの途中に「続ける理由がまだあるか」を確かめ続ける考え方を何と呼ぶ?
試験の受け方と総まとめExam preparation and final review
試験の形式
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 形式 | 多肢選択式(選択肢から選ぶ) |
| 問題数 | 40問 |
| 合格ライン | 65%(26問正解) |
| 時間 | 60分 |
| 持ち込み | 不可(クローズドブック) |
| 言語 | 当初は英語のみ(各国語版は準備中) |
出題のされ方と解き方
- 説明文から名前を当てる:「次の説明に当てはまるのはどれか」。各章の「問題文の手がかり」の列が役立ちます。
- 似た2つを区別する:「X と Y の違いは何か」。下の「まぎらわしいペア」を確実にしておきましょう。
- 場面に当てはめる:短い場面設定から、当てはまる原則・活動・役割を選ぶ。このガイドの「例」の読み方と同じです。
- 順番を問う:継続的改善の7ステップ、関係の3タイプの深さなど。
英語の問題では、キーワードの言い回しが手がかりになります。たとえば「fit for purpose」なら有用性、「evaluate, direct, monitor」ならガバナンス、「a set of organizational resources」なら管理プラクティスです。
まぎらわしいペア 総まとめ
| ペア | 見分け方 | 章 |
|---|---|---|
| 有用性 / 保証 | 何をするか(fit for purpose)/ 約束どおり動くか(fit for use) | 1 |
| UX / CX | 1つのプロダクト / 関係全体 | 2 |
| XLA / SLA | 体験が目標 / サービスレベルが目標 | 2 |
| ミッション / ビジョン / パーパス | 今 / 未来 / 誰のために・なぜ | 2 |
| 変更 / 変革 / BAU | 少しずつ / 根本から / 日常 | 2 |
| グッズ / アクセス / サービス・アクション | 所有権が移る / 移らない / 提供者が作業する | 3 |
| アウトプット / アウトカム | 成果物 / 望む結果 | 4 |
| スポンサー / 顧客 / ユーザー | お金を出す / 要求を決める / 使う | 5 |
| サービス品質 / サービスレベル / SLA | 特性の全体 / 測った値 / 文書の合意 | 5 |
| 組織と人材 / パートナーとサプライヤー | 自社の人 / 外部の会社と契約 | 6 |
| 内部要因 / 外部要因 | 4つの側面(管理できる)/ PESTLE(管理できない) | 7 |
| 移行 / 運用 / 提供 / サポート | 本番へ移す / 動かし続ける / 届け続ける / 通常に戻す | 9 |
| 指示 / モニタリング | 方針を決める / 守られているか確かめる | 12 |
| インシデント / 問題 / 既知のエラー | 中断・低下 / 原因 / 分析済みの問題 | 13 |
| メトリクス / CSF | 測定値 / 欠かせない前提条件 | 14 |
| CI モデルのステップ2 / 6 | 現状の基準をつくる / 目標に届いたか確かめる | 15 |
| バリューチェーン / バリューストリーム / プロセス | 運営モデル / 場面ごとの道筋 / 手順の部品 | 16 |
| コア / イネーブリング | 外部の利用者へ / 社内向け | 16 |
| マッピング / 管理 | ある時点の写真 / 継続的な改善 | 18 |
| 生成 AI / エージェント型 AI | つくる / 自分で動く | 19 |
| AI ガバナンス / 6C モデル | 統制する / 能力を分類する | 20 |
| ITIL / DevOps | 構造と統制 / 速さと文化 | 21 |
| ITIL / PRINCE2 | 続くサービス / 一時的なプロジェクト | 22 |
数で覚えるもの
- 価値の特性:4(有用性・保証・UX・持続可能性)
- サービス・オファリングの構成要素:3
- サービス関係のタイプ:3(基本的・協調的・協働的)
- 利用者側の役割:3(スポンサー・顧客・ユーザー)
- 4つの側面:4
- PESTLE:6
- ライフサイクル/バリューチェーンの活動:8
- バリュー・システムの構成要素:5
- 従うべき原則:7
- ガバナンスの活動:3(評価・指示・モニタリング)
- 管理プラクティスのグループ:2
- 継続的改善モデルのステップ:7
- 複雑性思考の状況:3(秩序だった・複雑・混沌)
- AI 能力モデル:6(6C)
おすすめの学び方
- 「全体の地図」を読み、8つの活動を英語で言えるようにする。
- 領域1から順に読み、各章の確認問題を、答えを開く前に自分で答える。
- 「まぎらわしいペア」の表を、左の列だけ見て右を言えるまでくり返す。
- 英語の模擬問題を解き、間違えた問題の章に戻る。